2315人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
◇◇◇◇◇
「最近の喬木は輪をかけてハッピーオーラが大きいな~」
週末、急いでデスクの上を片付ける俺に、小橋はニヤニヤ、そうだ!となにかを思い出したようだった。
「30才のお誕生日おめでとう!恒例の、莉子ちゃんお手製のプリンが入った箱を冷蔵庫に入れてるよ。俺からはバースデーカードと靴下で悪い」
「ありがとう小橋。莉子さんにも御礼を言っといてよ」
「ああ、わかった」
去年の誕生日にも頂いた莉子さんお手製のプリンは口どけが滑らかで、カラメルソースと甘いバニラビーンズの香り、生クリームがあわさりふわっと蕩ける美味しさだ。澁澤さんも絶賛だった、名店の味にほぼ近いって。
「なにかお返しをしなきゃな」
「いいよ、気にするな」
「澁澤さんの方が俺よりも料理の腕前が上だから……今度、デザートのお願いをしてみるね」
「ほんと?!」
「ああ」
やった!と喜ぶ小橋と並んで部署を出た。小橋のスマホの待ち受け画面は生まれたばかり莉卯ちゃんを抱っこする莉子さんだ。
「可愛いなぁ、我が娘!今日はパパとお風呂に入ろうな~」
小橋、お前……。デレデレ、ちゅう~っと長めのキスを待ち受け画面にするなんて、相当な親バカだ。でも莉卯ちゃんは日々成長するにつれ、莉子さんと小橋の良い遺伝子を受け継いだおかげでとっても愛らしい。ごくたま~に思う時があるのだが、澁澤さんは──。
「じゃあな、喬木。楽しい誕生日を。おやすみ」
「ありがとう。おやすみ小橋、また来週」
小橋と別れてから考えこむ。……澁澤さんは自分の子供が欲しくなったときに、結婚を考えると言っていた。予定よりも早めの結婚、しかも相手は男の俺。
「──圭吾、お誕生日おめでとう!さっきから俯いてどうしたの?」
「涼?柊佑も?」
「さっき、小橋さんにも会ったよ!昨日、誕生日プレゼントを渡したいってメールしたよね?」
「──ごめん!」
すっかり忘れてた!そうなのだ、昨夜は涼と律ママからもLINEが入っていたのだ。
「いいよ、気にしないで。僕も圭吾に誕生日プレゼントを渡したかったんだ。柊佑からもね」
「けーちゃっ、おめめと~!あいっ」
「マジで?」
「今日の保育園のお迎えは僕が行ったんだ、うん、マジで!」
「柊佑のイラスト?……なんだこれ。俺?あはは、最高!」
「そうみたい。まるの中にまるばっかりで、ふふ、下手なのは許してよ?僕からは置き時計だよ。帰ってから開けてね」
「──ありがとう、下手でもなんでも嬉しい」
……と、涼の後ろには……。
2人は上手くいったみたい?
「一颯の嫁さん、お誕生日おめでとう。今度飯でも食いに行こうと、アイツに伝言頼みます」
「あ、はい、わかりました!……え、俺に?ですか?」
「一颯は可愛い弟だからな、2人で仲良く食べなよ。くっ、そんなに怯えるな、喬木さん」
「はぁ、ありがとう……ございます」
これまた有名店のバウムクーヘンの包み紙だった。ちょっと怖いのは、雪士さんみたく刺青が見えたわけでもないのに……ゆったり笑う目の奥に宿るギラつく鈍い輝りだ。ヤクザ嫌いの涼と、どうやって……?その経緯をゆくゆくは訊いてみたい。
涼たちとも別れてまっすぐ向かうのはスイートルーム?マンション?今年の誕生日も思い出深い一日となりそうな予感だ。
「──ただいま…」
「おかえり、圭吾さん。誕生日プレゼントの山だな」
「ええ、小橋と莉子さん、同じ部署の片山さんと涼と……東郷さんからもです」
最初にただいま、おかえりのキス。俺も手を洗いエプロンをしてパーティーの準備を。
最初のコメントを投稿しよう!