2315人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
「えー、こほん。とっととはじめるか。うちの一颯と嫁にきた圭吾さんの2人の新しい門出を祝い、乾杯の……乾杯の……なんだっけ」
「組長、がんばって!」
「……龍輝、頼む。堅苦しい挨拶はどうも苦手だ、俺の性分に合わねぇや」
「ちっ、仕方がない。組長に代わり───」
「若頭、格好いい!澁澤家は全員、美形ぞろいだ!」
「マジで惚れそう~!」
「てめぇら、静かにしろ」
龍輝さんの一睨みで会場内がシン……と静まり返る。司会者、ホールスタッフの従業員たちは俺と同じ心境だろう。
ソッコー帰りたい!
「はやく終わんねぇかな、帰りたい。はぁ、ケーキカットがだりぃ……。圭吾さん、途中で抜けだそう?」
ボソッと呟く澁澤さんも同じ気持ちだった。龍輝さんの挨拶が無事におわり『一颯と圭吾さんの明るい未来に乾杯』、黒づくめスーツのイカツイ人たちも呼応する、でかい声で『かんぱーい!』。
「あ、りがとう……ございます」
でかいだけでなく迫力がある、俺の笑顔が引きつる。クラッカーがあちこちでなった。
「今日はめでてぇ日だ、二時間飲み放題の無礼講な。おまえら、普段俺に言えねぇ愚痴があるなら黙ってきいてやる。組長直々だ、こんな機会はまたとないぜぇ?」
いやいやいや、あなたと面と向かってはっきり(文句や愚痴が)言えるのは、お義母さんかお兄さん、澁澤さんぐらいでしょう。
ちびりちびり、スパークリングワインを飲む俺の前に組長さんが現れる。とうとう盃を交わすのか。うあ、緊張する~。
「今日から圭吾さんは正式な澁澤家の一員だ。一颯の嫁として、コイツをしっかり支えてやってくれ。俺は末っ子の一颯がいちばん……いちばん、かわっ……」
「はい、しっかり支えます。組長さんは一颯さんが可愛かったんですね。……ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
「盃事は神聖な儀式だが、今日はカーティヤと幹部クラスの龍輝、雪士が証人だ。圭吾さんは子分じゃねぇな、嫁だった!」
「ええ、まぁ」
ははっと豪快に笑う組長さんと少しだけ距離が近づいたような気がした。日本酒の入った盃を受け取る。
ニヤニヤ薄ら笑いの雪士さんの説明によると「あんたには理解できねぇかもな。本来は取持人の執行で親子盃が交され、親分から下げられた盃を新子分が飲み干すんだ。その盃を懐紙で包み、懐中におさめたあとは祭壇の神酒を2個の盃に注ぎ、左右の列座へとまわす」……はい、わかりません。
「雪士兄ちゃん、圭吾さんは組に入らないよ。ややこしい説明はカットな」
「せっかく俺が……」
「全員で手締めを行って終わり、でいいだろ」
「まぁな」
「雪士は黙ってろ。これは神聖な儀式だ」
「圭吾さん、俺の盃を受け取れ」
「───お義父さん、いただきます」
はじめてお義父さんと呼ぶ。一気に飲み干した。お義母さん、龍輝さん、雪士さん、そして俺の大切な伴侶、一颯さんの前で。
「よろしくお願いします」
これで澁澤家の一員に。
「圭吾さん、今度ショッピングにでも行きましょうね!東郷組の姐さん、和花さんに自慢しちゃうんだから!」
「う、わ?!」
素直に、嬉しい感情をあらわし一番喜んでいたのはお義母さんだった。抱きつく躰は細いのに力強い。貴女を大事にしていかなきゃ。……一生の、お付き合いのはじまりだ。
最初のコメントを投稿しよう!