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───嬉しい列席者は遅れてやって来る。
俺の誕生日祝いと披露宴会場みたいな乗りは酒が入り、組員全員が酔いはじめる。司会者の挨拶など無視で、賑やかな余興が始まった。
「姐さんの前で裸踊りは出来ねぇけど。……よっし、ソーラン節をすっぞぉ!」
「いいねぇ、さかもっちゃん!」
「十倉さんの筋肉もムキムキですごいっすよ~、上半身だけ裸で俺も踊ります!」
「司会者さ~ん、ソーラン節ぃ!」
は、はは。
ここにいる列席者は見かけはごつかったり、強面だったりするが中身は普通の男性だ。ワケありや家族と縁を切った者、刑務所生活を送った組員もいる。
「こうやって眺めていると一般人と変わらないですね」
「……組がアイツらの居場所だよ。それを維持できる親父とお袋は偉大だ、並大抵の努力ではできない」
澁澤さんもご両親のことは言葉に出さなくとも認めている、尊敬をしている。……とんでもない所へ嫁にきた気分だったが、それはそれでいつか懐かしい想い出になるだろう。
ソーラン節を踊ったのは15人ほどの組員たちだった。
「迫力満点ですね、全員笑顔が……怖いですが、楽しそう。男同士の付き合いはさっぱりしてますね」
歌えや踊れで騒がしいなか、ドアが開く。あれは俺の──。
「親父、お袋?」
まさかの兄夫婦まで!?さらに、ビュッフェスタイルのお酒の席には、しなを作る金髪の男性?女性がいた。
「今日はボランティアで参加しちゃいました、りっちゃんでぇす!澁澤組にはお世話になってるの、美味しいお酒を提供するわね」
律ママだ、なんで、どうして、と俺の頭の中がパニクった。
「……一颯さん、すみません。両親の傍へ行ってきます」
親父とお袋、兄夫婦の座るテーブルへと近寄る。俺を見つけたお袋がさきに口を開いた。
「3日前に招待状がきたの。あんたと澁澤さんの連名よ」
「ドアを開けるまで怖くて緊張したが……騒いでりゃヤクザも一般人と同じだ」
いや、多少は違うよ!……それはさておき、お袋が持参をした招待状の確認をした。
ほんとだ、7月……。品川プリンスホテル34F、ルビーの間。
「澁澤(旧姓、喬木)圭吾の誕生日会と……披露宴を行うにあたり……」
お義母さんは着々と準備を進めていたのだ、俺たちのために。
「出席をするのに躊躇いはなかった?」
「そりゃあったわよぅ、ね、お父さん」
「ああ、多いにあった!けどな、な、母さん」
「一颯さんが短時間だけどお仕事帰りに、うちに顔出しをしてくれてたのよ。『実家はヤクザの家元ですが、俺は一生堅気で生きていきます』って、素適な王子さまみたいなイケメンに、真剣に口説かれちゃったら……うふ」
口説っ…?お袋、それは勘違い。
「そういう経緯だ。お前の旦那さん?……若いのに、しっかりしてる。一級建築士だって?すごいな」
「そ、そうなんだ……。うん、一颯さんは俺には勿体ないよ」
澁澤さんは俺の知らないところで───。あー、だめだ。涙腺が弱くなる。
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