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蜜月②~Sweet days~
晴れて恋人同士となりました。
まだ実感が湧かないけれど。
俺は自分のスマホのスケジュール帳アプリに記念を残そうと日記をつけてみた。
……にやけが止まらない。
夢みたいだ、好きだと言ってくれた───。
2度目のキスのあと抱きしめ合ういいムードを壊したのは澁澤さんのスマホの着信の音だった。しまった、という顔をする。
「ちっ、忘れてたっ」
「俺のことは気にしないで早く行ってあげて下さい」
すぐに溶ける雪だが、今夜は風邪を引きそうな寒さだ。もし俺が倒れてしまえば繁忙期にあたる部署の皆に迷惑がかかる。それは澁澤さんにも同じことが言えるわけで、仕事に穴を開けるのはプライドが許さないだろう。
「帰りましょう」
「そうだな……」
駅のホームを目指し逆戻りだ。
ガラガラの車両内でロングシートに腰を落ち着ける澁澤さんの機嫌が悪かったなぁ。話しを振っても「──あ、うん」、と素っ気ない。俺よりさきに、降りる別れ際には思い直したのか「帰宅次第にラインを送るよ。遅くなったけどクリスマスイブの日をやり直そう。おやすみ、喬木さん」……信じられないがまだ数人の人がいるのに。俺の前髪に唇が触れた。
「は……い。おやすみなさい」
恋人の特権でしょうか。……にやにやが止まらない。
部屋に上がるなり真っ先にストーブをつけた。うー、さむっ。スマホの着信音が鳴った。
───涼だ。
「もしもし、圭吾?いま、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。なにかあった?」
「あのね、2月末にピアノ教室のバイトを辞めるんだ」
「教職に就いたんだっけ、おめでとう。益々忙しくなるな。都合のつく日に、飯でも食べに行こうよ、お祝いに奢る」
「ありがとう、圭吾。バイトを辞める月に──……」
「……え」
そうなんだ、涼が……。
「僕と教室の先生たちと、本物のピアニストを交えてミニコンサートを開催するんだ」
「送別会の代わり?」
「うん、ピアノ教室の生徒たちと保護者の方と僕も友人を何人か招待したくて」
涼は俺とクリスマスパーティーを過ごした小橋と莉子さんを呼びたいそうだ。ストリートピアノの動画は再生回数が、動画を挙げた莉子さんが興奮状態だったらしい。涼はこのあと小橋と莉子さん、澁澤さんの親友、俺の結婚式の時にも見事なピアノ演奏を披露してくれた、大事な親友だ。
「あのさ、涼」
「なに?」
「あと一人だけ無理かな?」
きっと、いいよって快く承諾をしてくれるはず。
「───わかった。招待状とパンフレットを送るね」
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