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スリッパを履き、リビングへと続く扉を開けると────。グレーカラーで統一をした部屋が目の前に広がる。大人の落ちつきがありながらもリゾートっぽい雰囲気だ。
「一人でコーディネートをされたんですか?」
以前に訪れた時とは別世界だ。
「そうだよ、即席で悪いけど。カーテンとカーペットを替えたんだ。クッションも同じ色の物を置いてみた、気分だけでもな。コートを貸して、ハンガーに掛けとくよ」
いやいやいや、即席でこんな手の込んだ部屋は作れないでしょう。ダッフルコート脱ぎ、手渡すと改めて辺りを見渡した。
リビングの真ん中にはライトを全巻き以外、飾りが一つもない、真っ新なクリスマスツリーが置いてある。ナチュラルな木のツリーカバーを使用することで北欧テイストの温かみを演出していた。
壁を飾るガーランド(花や植物、果実を使ったひも状の装飾品)にはフェルトの生地でこしらえたもみの木、星型、可愛いサンタクロースをぶら下げている。
澁澤さんが作り上げる空間はクスリと誇ろんでしまう優しさに満ち溢れていた。
「そろそろ飾りつけをしようか。喬木さんのセーターの色、よく似合ってるよ」
「……ありがとうございます」
無難な白のハイネックのセーターだけど。
「髪型を変えた?」
「少し揃えました」
「俺さ、髪と肌が綺麗な子が好きなんだ。きちんと手入れが行き届いてるかどうか、すぐ分かる」
「………」
母親譲りです、マメにお手入れはしてません、とは言いにくい。
ツリーの傍に置く収納箱の中から、大小さまざまなオーナメントとリボンを取りだした。
「オーナメントは取り付け方があるよ。ワイヤーに通して2本まとめてねじる。小枝に巻きつけてね。重いオーナメントをつける場合は隣の小枝を巻き支えると下にさがるのを防げるよ」
「……はい」
こんな感じか?
丁寧なアドバイスを受け、下までまんべんなく装飾を行うことでキレイな三角形のツリーに仕上がった。
我ながら上手く飾れたなぁ。
最後の仕上げは澁澤さんが赤いリボンをたるませ、らせん巻きをしながらウェーブを作り、その端をワイヤーで留めていた。
「豪華ですね、店頭に並んでいるクリスマスツリーみたいです!」
「……喬木さん……。俺の職業……」
俺の発言がおかしかったのか、澁澤さんは小さく肩を揺らしていた。
和やかな雰囲気が流れるなか、俺のスマホがなった。誰からだろう、急ぎの用件だと悪い。一言、断りを入れてから出ると涼からのLINEだった。ご丁寧にお礼の文面と柊佑の可愛い写真つき。そうだ、澁澤さんに涼のピアノコンサートの話しを振ろう。
「誰?」
「親友の涼からです。この写メは親友の1人息子の───」
俺がクリスマスプレゼント用に贈ったキッズミニピアノの前でニコニコ笑う柊佑が写っている。柊佑には、涼が諦めたピアニストの夢を叶えてほしいんだ。
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