蜜月②~Sweet days~

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※※※※※ 「───……と言うわけなんです。涼には了解を得てます。澁澤さんの都合がよければ……」  2月末に涼がバイト先のピアノ教室を辞め、講師によるピアノ発表会、プロのジャズピアニストの月山薫さんをまじえての演奏の経緯も話した。 「……わかった。喬木さんの親友の……月山薫さんも?すげぇな」 「有名な方ですよね。俺は、本物(じつぶつ)を拝見するのははじめてです!」 「あ、うん、俺も。聴くのは洋楽ばっかでさ……クラシックとかジャズとかは全然。今度、月山さんのピアノ曲を聴いてみるよ」  その日は空けとくね、との快い返事をいただいた。さてお次はクリスマスディナーの準備だ。エプロンを引っかけ、シンクで手を洗う。なにを手伝えばいいのだろう。 「メインの盛り付けは俺がする。喬木さんは野菜を切って湯がいたり、玉子を割ったり、サポートをお願いします」 「わかりました。こういうクリスマスの過ごし方も、アットホームな雰囲気で素敵ですね」 「……だろ?レストランでの豪華なディナーもいいけれど、俺は……」  はい?手を洗い終えた澁澤さんはタオルで拭き、向き直る。じっと見つめる焦げ茶色の瞳に自分の姿が映った。 「作りあげる方が好きなんだ。喬木さんが初めてだよ、キッチンに並んで一緒にディナーを作るのは」  どきっとなる、今までの彼女さんの話しだろか、聞きたくないけれど。 「俺も初めてです、イベントごとはあまり、興味がありませんでした。ずっと一緒にいたいです、これからも」  重たかったかな、でも澁澤さんは目元を緩ませ、嬉しそうに微笑んだ。 「わざわざキャンディを贈るかよ。短期間で付き合うのも初めてだ、喬木さんのエロい躰が良すぎたみたい。毎夜恋しくて」  くっくと薄意地悪く、喉を鳴らしていた。 「そろそろドロップキャンディがなくなった頃だろ。新しいのを用意してるよ」  シンプキン社が同封していた、メッセージカード、『シンプキンボタニカルキャンディで幸せなひと時を大切な人と一緒に……』。実現するんだ、知ってか知らずか、「今日、用意したのは……自分での目で確かめて、隣で食べなよ。夕食の準備に取りかかろう、時間が勿体ない」、どうしよう、困ったな。  あなたから目が離せない──。
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