『電車のプリンス』

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 澁澤さんとの最初の出逢いは、11月半ばの冷え込む朝だった。街並みは一足早いクリスマスムード一色に彩られ、行き交う人達はコートやジャンパー、帽子、手袋をばっちし着こなしている。    俺は車を所持していないため、毎日満員電車に揺られ勤務先へと向かう。本日も朝のラッシュ。寝ぼけ眼で欠伸を溢し、いつもの車両へと乗り込んだ。  ただ違っていたのは、場違いな人がいる、満員電車というシチュエーションが全く似合わないのだ。一般人で、こんな人もいるのかと感心した。滅多にお目にかかれない人種だ。  片手で小説並みの小さな本(離れていたので、なんの本なのか分からない)を持ち、真剣な眼差しで読んでいる。ビジネス関係の本なのか、やけに気難しそうな面持ちだ。
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