『電車のプリンス』

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 有能なビジネスマン風に映る彼は黒のロングコートを羽織り、腰の位置で留めたベルトが嫌味なぐらいに、足の長さを物語っていた。手触りがよさそうな滑らかな焦げ茶色の髪をさらりとサイドに流す。高い鼻、ギリシャの彫刻のような凛々しい横顔だ。  キュッと結んだ唇はとても意志が強そうで、彼が睫毛を瞬かせ時折眉根を寄せ、考え込む節を見せるたびに周囲の女性たちは『きゃー』と小さな溜め息を吐いていた。  眉間に皺を寄せた気難しい顔でも絵になるのか。女性に不自由してなそうだ、こりゃモテるな。同じ男として正直、羨ましい気持ちが生まれる。ちょびっとだけ、うん、ちょびっとだけだ。  俺が社内で気難しい顔をしても『お腹の具合が悪いのですか?』『虫歯が痛むのですか?』、と女子社員に心配された記憶が甦る。  別に、女の子にモテなくても……。仕事が順調、時々、夜の相手をしてくれる人がいれば、それで満足だ。生活をしていける給料さえもらえれば充分なのだ。それに、ステータスの高い男性と親しくなれる機会(チャンス)などそうそう巡ってこないだろう。
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