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───正確に言えば『最悪な出逢い』だ。
俺は噂の彼の背後、つまり、澁澤さんの右斜め後ろに吊革を持ち立っていた。普段は中央寄りへ移動する彼がなぜか今日に限り、車両へ乗り込んだ途端、足を止めたのだ。
う……わ、眩しい。こんなに間近で眺めたのは初めてだ。遠目で眺めるよりも、ずっとずっと──圧倒されてしまう。清潔感溢れる爽やかな香りが鼻を擽る。手入れのゆき届いた髪は艶々と輝いていた。俺の隣に立つ、小柄な女子高校生もうっとり見惚れていた。
スマホを取り出した、彼を撮るつもりだ。
ピアスをしている……俺と同じサラリーマンじゃないのか。ちっくしょ、神様は不公平だよなぁ。天は二物を与えないと言うが 嘘だ。目の前に立つ彼の印象は仕事も出来そうだ。小さなピアスが少々引っ掛かったが、第一印象と変わらない。電車のプリンスの後ろ姿をぼんやり眺めてた。
そして事件は次の瞬間に起きる。
「あんたさ。俺のケツ触ってなかった?」
はい?
「次の駅で 降りな」
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