『電車のプリンス』

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 キッと見上げる俺とバチっと目が合う。う……わぁ……。不覚にも、その美貌にクラリとなってしまった。 『電車のプリンス』。上手い例えだ、眩間近で拝めば拝むほど彼の強い雰囲気(オーラ)に呑まれそうになる。 「しまった、大事なポスターでつい頭を叩いちまった。言い訳で悪いが、あの電車に乗り出してからケツや背中に変な違和感や視線を感じるんだよ。今日こそ捕まえてやろうと思ってた」  完全に痴漢扱い、もしくはそのグループの一味だと誤解をしている。 「お、俺はなにもしてません!」  貴方の勘違いです、それよりも会社。次の電車に乗車しないと完全に遅刻だ。  彼は自分のジャケットのポケットをガサゴソと探り、なにかを取り出すと俺のスーツのポケットへ強引に捩じ込んだ。 「それ、俺の勤務先。菓子折持って 謝りに来てよ。貴方の社員バッヂと交換だ」 「え、え、ちょっ……」    ちょっと……?  スーツの襟元に着いていた社員バッヂを素早く取ると不適な笑みを浮かべる。踵を返した広い背中が視界から遠離るのも早かった。  大事なポスター、肩に引っかけていた長細い筒形の図面ケース入れ。それがなにを意味するのか、名刺に答えが書いてある。俺はその名前にピンと来なかった。同じ社内で働く同僚が教えてくれたのだ。
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