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「無礼な方ですね、サファイア姫。舞踏会の最中に王子の手をふり切って逃げ出すなんて……」
正面に立つ男が、皮肉っぽい冷笑を唇に刻んでカツンと一歩歩を踏み出した。
「いや、近寄らないで……!」
サファイアはますます怯えて、男から身を遠ざけようとした。
だが、背後は大理石の塀、それ以上後ずさることができず、小さくあえいだ。
人形めいた可憐な美貌は恐怖に蒼ざめ、華奢な肢体が小刻みに震えている。
怯え切ったその顔が可愛いらしい美貌をいっそう魅力的に見せていることなど、むろんサファイアは知る由もなかった。
男たちが、ゆっくり包囲の輪をせばめてくる。
「城にお戻り頂きます。王子がお待ちですよ。貴女が階段の途中で落とした硝子の靴を持ってね」
言葉つきは丁寧だが、眼差しにも物腰にも油断のならないものがある。
何よりも、男たちの格好……シルクのスタンドカラーシャツに黒い執事服、腰に銀細工の剣を帯びている。
明らかに、城の護衛騎士じゃない。
かと言って単なる執事とも違う、殺伐とした雰囲気と隙のない物腰。
闘い慣れた男たちだと、ひと目でわかった。
「助けて!誰か!」
震える声をふり絞り、サファイアは大声で助けを求めた。
「こいつ!静かにしろ!」
紳士の仮面をかなぐり捨てて、男たちはサファイアに躍りかかった。
あっという間に後ろ手に縛られ、大きな布でさるぐつわを咬まされてしまう。
「うっ!ううっ!!」
がむしゃらにかぶりをふって、サファイアはもがいた。
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