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とても狭い。十数歩も歩けば一周できてしまうような空間。
それだけがぼくの世界全てだった。
狭く、暗く、冷たい幾つかの部屋と、日に一度必ずやってくる父との会話だけが、全てだった。
ぼくは地下室で、生きていた。
時間もなく。楽しみも、また苦しみもなく。たった一人で、生きていた。
――日の光を見たことがなかった。
光源は、自分で点ける蝋燭の灯りだけだ。
父はぼくに言葉を教え、文字を教えた。
そして、地下の書物庫の鍵をくれた。
ずっと、本を読み続けて過ごした。
孤独だが、満ち足りた生活。
例え現実のぼくがこうして暗い世界に閉じこめられた存在だとしても――
物語を読んでいる間だけは、自由に世界を旅する少年になりきることができた。
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