断章の1 -生誕-

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 A=B。B=C。故にA=C。  権威のある本にそう書いてあるのだから、きっと外の世界は本当にそのように美しい構造をしているのだろう。  そんなことを、夢想していた。  いつまでも続く、一人きりの生活。  揺れる蝋燭の火だけを頼りに、爪の先よりも小さな文字の列を追うだけの日々。  目が悪くなるのは必然だった。  父からもらった眼鏡は、もう役に立たなかった。  ぼくは、寝ずに食事が届けられるのを待った。  扉のすぐそばに座り込み、何時間も、ずっと……  父がやって来たら、扉越しにでも声をかけるつもりだった。  新しい眼鏡を、ねだるのだ。  きっと父は返事をくれないだろう。  でも、眼鏡は用意してくれる。  なぜかそんな確信があった。  しかし、父に直接交渉をする機会は、ついに一度も訪れなかった。  その頃から食事が一切届けられなくなったからだ。
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