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ポーカーで大勝し、悔しがるガムに不毛な罰ゲームを強いた夜、マックは静かに黒いスーツに袖を通した。
「ジャッキー」
「なん?」
「俺、しばらく帰ってけーへんと思うわ」
告げる声はどこか諦めたような、乾いた笑いが滲んでいた。
「寂しいか?」
この男が隣にいないことは、寂しいのか、辛いのか、苦しいのか、悲しいのか。
どれも当てはまらない気がしたのでジャッキーは答えなかった。
「かまへんよ。もう行くん?」
「そうやな」
「外まで送るわ」
クラブエイトの猥雑な出入り口の前で、ジャッキーは誘蛾灯の光を頼りにマックのネクタイを結び直してやる。
「あんた、口の中治ったん?」
「治った治った。トッポの薬、効いたわ」
「ほんま?見せて」
マックは無邪気に口をぱっくりとあけた。
「綺麗やろ」
「ほんま、綺麗やな」
不意にマックの腕がジャッキーの背にまわされる。ジャッキーもマックの背に腕をまわした。
「ごめんな」
ジャッキーの耳朶の下に肉厚の唇が押し当てられ、吐く息が首筋を撫でた。
マックはそのままゆっくりとジャッキーを壁に押し付け、強引なほど激しく唇を奪う。
柔らかい唇は熱く、差し入れられた舌はもっと熱かった。
マックは執拗な口づけを続けながら、ジャッキーの着ているシャツを器用に左右に裂いた。
唇と舌は、ジャッキーの唇から顎、顎から首筋へ移動し、胸の突起に辿りつく。
なよやかな長い指先が敏感になった突起を抓み、捏ねまわす。
「もう、…あかん」
「なんで?」
「立ってられへん」
その言葉を聞いてもマックは止めなかった。頽れるジャッキーを支え、乳首に吸いつきつつ尖らせた舌でねぶった。
「あかんて」
溢れてきた涙を見られないようにジャッキーは片手で顔を覆ったが、マックにすぐに引き剥がされてしまったので結局ぐちゃぐちゃの顔のまま見つめ合うことになった。
「ごめんなんて聞きたない」
マックは黙ったまま微笑み、ジャッキーの荒れた頬を撫でると、流れ落ちる涙に口づけた。
その優しすぎる口づけに、ますます涙が溢れだす。
(お願いやから、あんたのこと、これ以上好きにさせんといて)
「死ぬな」
「死なへんわ」
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