『押入れ脱出ゲーム』

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「今日は早上がりですか?」  声をかけてきたのは俺と同じ営業部に勤める後輩のヒラノだ。今年で2年目のまだまだ若手な男だが、仕事の腕は確かだ。 「ああ、悪い」 「そういえば、さっきタケイ先輩が食事に行ってた時に電話がかかってきましたよ」 「俺に?」  ヒラノは胸ポケットからキティちゃんの模様が書かれたメモの一片を取りだした。彼女の趣味だろうか。 「電話越しで──私の電話は知らないはずだからここにかけてくれ──と言っていました」  俺は頷きながらメモを受け取った。  今日は大事なユキナとのデート……という名のW不倫。  “旦那”は出張に行くから、朝までハスリングできるって話だ。年甲斐も無く自分の中で迸る情熱に、嬉しい気持ちになる。 「じゃあな! ヒラノ! 仕事頑張って美味い物でも食えよ!」   「はい、先輩、ちゃんとそこに電話して下さいよ!」  電話なんてするかっつーの!  電話するならまずユキナに今から行くって電話をしないと。
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