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「にしてもまぁ、惨い殺し方じゃあないか。致命傷は首もとだね。深く抉ってある。悲鳴すらあげられなかっただろう。だというのに、君はわざわざそのご婦人の腸を引きずりだした挙げ句、とち狂った芸術のように並べている。
動機は私怨かな?ご婦人の着ている服は貴族御用達の仕立て屋のものだ。借金でもあったのかい?それとも貴族階級の特権という名の理不尽の被害者とか?」
「.......恋人を寝捕られたの。彼、金であっさり釣られて私を捨てたわ」
「なるほど。それで君は復讐心に燃えたわけだ。先日、男の斬殺死体が見つかったようだけど.......それも君だね?」
全てを見透かしたような眼を女に向ける。
「……隠す意味もなさそうね。そうよ、私が殺した」
「かの切り裂きジャックの名を借りて、だろ?」
女は鼻で笑った。なんて意地の悪い刑事だと。
追い詰めた鼠を前にして、いたぶりをかけている。
なんて白々しい。立場を利用して弱い者苛めを行う法の狗。
――こんな男に私が捕まる?冗談じゃないわ。
女に改めて殺意が芽生えた。
「そうよ。今、このロンドンにいる殺人犯。既に八人の売春婦を殺害していながら、捕まることなくさらに罪を犯していく。だから犯行の仕方を真似すれば、罪を擦りつけることができる」
男は「やはりね」と呟く。
「今や切り裂きジャックはロンドンを震撼させる時の人。当たり前だろう。これだけの猟奇殺人を犯しながら、尚も捕まることはない。中には英雄視する者もいるとか。国のいく末が思いやられるよ」
それから大袈裟に肩を上げた。
「けど、君はその復讐心がために過ちを犯した。切り裂きジャックは女しか殺さないというルールから外れてしまった。死んだ彼の身元を調べたら、君の存在が見つかったよ。女の殺人に対する動機なんて単調なもんさ。嫉妬、これだけだからね。そして跡をつけたらこの様さ」
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