9人が本棚に入れています
本棚に追加
「……会いたいなぁ」
少女は白髪の少年の顔を思い浮かべていた。既に少女の中で少年の存在は兄よりも大きなものになっていた。
こんなことを知られたら兄は何と言うだろうか。それを想像しながら少し微笑んだ。
少女には既に時間の感覚は薄くなっているが、敢えて言うのであればせいぜい20分から30分ほどの時間休憩していただろう。
少女はよいしょと呟いて立ち上がり、自身の疲労がある程度取れた事を伸びをしたり軽く飛んでみたりして確認した。これなら暫くはまた歩けるだろうと確信を持ち、少女はまた終わりの見えない道を歩き出した。
―――――――。
最初の休憩から2時間ほどの時間が経過しただろう。
少女は適度に休憩を挟みながら、終わりの見えない道をただひたすらに、何の目的もなく進んでいた。
そうやって進んでいる間にも少女を追うように蠢き近づいてくる茨は絶えなかったが、最初の大きな衝撃で慣れてしまったためか彼女は左手に握ったナイフでその茨達を軽く往なしていた。
やがて、少女の前に今までの道ではない何かが見えてきた。
広い空間に出た。とは言っても歩いてきた一本道の幅が狭かったためにそう感じるだけであって、実際は先程の道幅5つ分の幅、それと同等の奥行きがある程度のものであった。
明るさは依然変わらない。鬱蒼と茂る木々が少女を閉じ込めんばかりに囲い、光を殆ど遮断している状態であった。
少女は警戒して暫く立ち止まりナイフを構えるが、何かが襲ってくる気配はなかった。視線は常に感じているが、もはやそれも少女を狙うと言うよりただ見詰めているだけのようなものに変わっていた。
少女は安堵の息を一度漏らす。それと同時に少女は、彼女の脚で6,7歩ほど先にある"それ"に気が付いた。
赤。溶けるような赫(あか)。溢れるような紅(あか)。吸い込むような緋(あか)。この世のものとは思えないほどに澄んだ紅(くれない)の薔薇が一輪、そこに植わっていた。
常識的には有り得ない生え方である。薔薇が一輪だけ、数枚の葉とともにそこから顔を見せているのだから。
しかし、少女はそんな異様な薔薇の在り方は全く気にしなかった。ただただ、その薔薇のような何かを「美しい」と感じたのだ。
異様なほどに澄んだ鮮血の色。その色に今にも散ってしまいそうな脆弱さと、絶対に枯れ落ちないという永久を感じさせた。
最初のコメントを投稿しよう!