Thorns and Roses, and The Girl.

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 どれほど時が過ぎ去っただろうか。  途方も無い時か、刹那的な時だったか。もう誰にもわからない。  少女からは、既に時間の感覚が失われていた。一心不乱に鮮血の薔薇に水を与えてるのみ。  鬱蒼と茂り光を遮る木々に隠れていた小さな泉。そこに覚束ない足取りで近付き、その細く小さい両手で水を掬っては、ふらふらと薔薇の元に歩いて戻る。その間にも力の入りきらない少女の掌の器からは、透き通った綺麗な水が指の隙間を通り、彼女の白い腕を伝って零れていく。  薔薇の下に辿り着く頃にはもはや濡れた掌しか残っておらず、指先を下に向けて濡れた手から表面張力を突破した水滴をぽたぽたと落とすのみであった。  その一連の動作はまさに操り人形そのものであった。生気を失った瞳と体に、上から無数の見えない糸を吊るして操っていると言われても不自然ではない程に。  一つ一つの動作に彼女の力が入っていない。  彼女を操れるものが居るとすれば――――そう、このこの吐き気を催すような気色の悪い紅の薔薇であろう。  薔薇は操っているのだ。水を寄越せと言って。彼女は従うしかなかった。拒むという選択は、彼女の中からすでに削除されていた。 「まだ、足りない? ……そっか、じゃあもっと持ってくるね」  薔薇に向けられた言葉であったが、独り言にしか見えない。  彼女には、彼女だけには聞こえているのだ。薔薇の声が。  しかし、その薔薇の悪意に満ちた何かに気付くことは出来なかった。唯只管、満足するまで水を与え続けている。  もう、救えない。誰が見てもそれは明らかであるほどに、少女は何度も何度も薔薇に水を与え続けている。 「うふふ、元気になってね」  もはや人間の微笑みではなかった。  彼女は気付いていない。水を与える毎に、薔薇の根本の茨が増えている事に。  彼女は気付いていない。水を与える毎に、彼女の全身は茨に絡みつかれている事に。  彼女は気付いていない。体がだんだんと茨に絡まれて動けなくなっている事に。  彼女は気付いていない。もう既に水ではなく、彼女自身が薔薇の養分になっていることに。  彼女は気付けない。最早人間の感情は眠っている。  彼女は気付けない。この恐怖にも、この痛みにも、この絶望にも。  彼女は気付かない。もう二度と、この悪夢から逃れられない事に。  彼女は、望みもしない笑顔を貼り付けたまま、動かなくなった。
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