Thorns and Roses, and The Girl.

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 少女は迷っていた。  年の頃は13、4歳と言ったところであろうか。まだ発育途中であろう身体とそれに似合う大きなエメラルドグリーンの瞳が特徴的であった。少し癖のあるブロンドに近いブラウンカラーのロングヘアーは、痛むことを知らず艶やかに綺麗なウェーブを描いていた。彼女の几帳面さや慎重さがその様子から見て取れるだろう。  そんな少女は胸の内で、煮えたぎるような恐怖と踊るような好奇心を同時に奏で、奇妙な色を見せながらこの空間の四方を眺めていた。 「ここは一体、どこ……?」  少し上擦って震えた声でそれを口にする。  …………。  僅かの反響もなく、少女の声はまるで受け入れられるかのように、そして拒絶されるかのように感情のない闇に溶けて消えた。  少女が振り向くと、彼女のクラシックガーリーな洋服と臙脂色のポンチョが衣擦れ音を立てる。 「何も……ない……?」  確認をするように口に出す。今度ははっきりとした声で、自分に伝えるかのように。しかしその声すらも闇に溶けるのみであった。  少女は暫くその場を歩いてみたり走ってみたり、座ってみたりもすれば飛んでみたりもした。しかしそこに生まれるのは少女が動くことで発生する音のみであった。反響は依然無い。いくら進んでも壁に突き当たることもない。少女の可愛らしいキャメルカラーのトレッキングブーツは、まるでタイルの上を歩くかのような抜けの良いカツカツという音を立てるのみであった。  床に触れても「触っている」という感覚はあるが熱くもなければ冷たくもない、全く味のないチキンを食べているかのようななんとも言えぬ苦い気分になるのみである。 「ううん……困ったなぁ」  少女は呆然と立ち尽くし、顎に手をやり無い頭で必死にこの状況を把握しようとした。その時の少女の表情は、誰もいないこの空間では分かり得ないものであろう。  刹那、カツン、という革靴が床を叩く音が一度だけ響いた。  その音のみが、その空間で反響したかのように少女には感じられた。依然収まらない煮えたぎるような恐怖と、それに相対するように状況の進展を期待する少女の瞳の翠が混ざり合い、美しい色を奏でた。  音の先を少女は迷わず見やったのだ。  僅か10メートルほど先、なんとも言えぬありふれたデザインの木製扉が、そこにはあった。  ただ一点、その扉は吸い込まれるような緋色であった。
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