Thorns and Roses, and The Girl.

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 なんて美しい場所なのだろう。  少女はまずそう思い、幼子の頃初めて「学校」というものを知った時と似たような強い感動を覚えた。 「素敵……」  口から零れたのはまずその一言であった。意識して出したものではない。ただ心が満ち、満杯になってしまった感動が口から言葉として溢れただけなのだ。  ここまでに心穏やかで、静かで美しく、微笑みを隠し切れない空間は少女にとっては初めてのものであった。  近くの木々の枝で色とりどりの小鳥たちがまるで彼女を歓迎するかのように囀る。どれも聴いたことのない鳴き声であったが、少女はこの小鳥たちをよく知っているような気がした。一体どこで知ったのかは全く記憶に無いのだが、やはり何か懐かしい感覚を覚えた。  小川のせせらぎと共に凪いでいた空気が風に乗り微かな音を立てる。  この場所の、この空間の全てが彼女にとっては安らぎだったのだ。  しかし、一抹の不安。少女はこの空間がどこにあり、何故自分がここに訪れたのかが全く理解できなかったのだ。  このまま帰れないのではないか、一生ここに居ることになるのではないか。そんな不安が、安らいだ心の中で僅かに顔を見せるであった。  少女が立つ場所から先は一本道である。まるでこの奥に進めと言わんばかりに追い風が少女の背中を押す。  少女はそんな追い風の誘いに乗って一歩前に進んだ。  その時初めて、少女のスカートの右ポケットに少々の違和感を感じた。 「なんだろう……?」  少女は意外と深く作られたスカートのポケットに手を入れ、その違和感に触れる。指の腹で触れた感触だと硬い。木材のような気もすれば、それ以外の材質のような感覚もある。  何やら金属のようなもので模様が装飾されているようで、その模様を薬指でなぞる。少々複雑な模様のようで、たまにザラッとした感覚になることが確認できた。「違和感」の感触をひと通り把握してから、彼女はそれを取り出した。  ――――ナイフだ。  柄から刀身まで全て金属で出来ているようで、刃先は特徴的とも言える反りがあった。どうやら鞘は木材で出来ているようだ。その上から柄や刀身と同じと考えられる金属で装飾が成されていた。鳥の翼にも見えれば、海で起こる大波のような姿にも見える少々抽象的なデザインの装飾であった。  いつポケットの中に入ったのかは不明だが、少女にはやはりそのナイフに見覚えがあった。
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