Thorns and Roses, and The Girl.

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 右腕を掴まれた瞬間、少女は転びそうになった。しかしそれさえも許されることなく右腕は引っ張られ、棒立ちの状態にされた。  茨だ。  見たこともない、まるで人間の血液でも吸ったかのような紫斑を連想させる悍ましい色の茨が、少女に絡みついていた。それは生きているかのように、動くたびに彼女に絡みついた。 「やだっなにこれっ!」  茨の刺が少女の身体に食い込み、彼女の服に血を滲ませた。  咄嗟に空いた左手で茨を引き剥がそうとするが、それは冷静な頭で考えれば間違った判断であった。  茨を掴んだ瞬間。少女は言葉にならない短い悲鳴を上げて左手を離した。  左手の平の所々から血が溢れてきたことを少女は自身の目で確認した。茨の鋭い刺は少女に掴むことを許さなかったのだ。  少女は更に混乱した。既に冷静さの欠片も失いそうなほどに煮詰まった恐怖で埋め尽くされていた。  掴まれた腕を解こうと藻掻けば藻掻くほど、"それ"は少女の二の腕へ、肩へ、首へ、胸元へ、腹へと絡みついた。  怖い、怖い怖い怖い。嫌だ、嫌だ。誰か助けて。  少女の中にそんな言葉だけがただただループするように巡っていた。  緊張と恐怖のせいで既に声が出ない。必死に舌の形を作って息を吐くも、そこからは酸素の薄い空気が抜けるのみであった。  もう悲鳴すら上げることも叶わず、涙ばかりがボロボロと零れて少女の視界を埋めるのみであった。  動いてはいけない。  本能のように、少女は自身のその命令に従った。動かなければそれ以上茨は絡みついて来なかった。藻掻かなければ茨は少女をそれ以上捕えようとはしなかった。  左腕と腰から下、そして首から上。現在自由に動かせる身体の範囲だ。幸いにも左手が利き手だった少女だが、いったいこんな状態で何が出来よう。恐怖に埋め尽くされた少女は既に思考すらも儘ならない状態だ。  それでも「何か、何かないか」と自身の左腕以外を動かさないように自身の周辺を模索した。  周辺に腕を振るも、空に触れるのみで何も見つからない。腕を振るたびに暗闇の中で自身の左腕から血液が抜けていくような感覚にも苛まれた。茨の棘による怪我は深いものではない。流血も大した事はないが、少女の強い恐怖がそれを深い傷なのではないかと錯覚させていた。  その時である。  偶然にも、少女は自身のスカートの左ポケットに手を触れた。  少女は思い出した。
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