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今日は彼女、冨士美ころねの誕生日。
そう、今日は僕の緊張すべき一日になるはず、だった。
「大丈夫?」
彼女のバッサリと切られた髪を、僕は優しく撫でる。
「う、ん。でもさ。わたしも、坊主にしようかなぁ」
彼女の髪は、腰の長さまであって。自慢のひとつ、だった。
「そこまで、しなくても」
彼女は、僕に頭を突き出す。
「ここ!」
「ここ?」
「よく見て!」
僕は彼女が指さした場所を、じっと見ると。
500円玉の、丸い、禿ができている。
「ど、どうしたの?」
「あの、香美音子っていう新人美容師が!
ヘアピース作る時に、失敗したの!
おまけに、これが新しいデザイン!
とかいってね、こんなにしたんだから!」
彼女はとうとう、こらえきれずに大きな声を上げた。
そんな時。
けたたましいチャイムの音が、部屋中にこだまする。
僕は彼女をなだめて、玄関に出ると。
僕の親友であり、蛸屋キョウが息を切らして立っていた。
「ころねちゃんは?」
「泣いてる」
僕はじろり、とキョウを睨む。
「もう、お前のところには行かせたくない」
できるだけ、感情を抑えた声で。
キョウに凄んだ。
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