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「せっかくだから携帯にも入れておきましょ」
私が自分の写真に少し見入っていると、千夜はそう言ってカメラからメモリーカードを抜き出した。
「別に入れるのはいいけど、恥ずかしいからリゼ先輩に送ったりしないでよ?」
「大丈夫よ、私が壁紙にするだけだから」
「そ、それはそれで恥ずかしい気もするけど…まあいいわ」
私たちがそんなやりとりをしていたところ、軽い揺れとともに列車が動き出した。いよいよ、北海道に向けての長い旅が始まる。
列車が走り出して少しすると、乗務員の人が数種類の飲み物を持って来てくれた。この部屋の乗客へのサービスらしい。
千夜はその中からお茶と水、そしてグラスを二つ持つと、
「飲み物ももらえたし、ロビーに行ってお弁当食べましょ」
そう言って立ち上がった。
私も二人分のお弁当を持ち、千夜の後に続いて3両後ろにあるロビーまでやってきた。
広いロビーは人気が高いらしく、発車してからそんなに時間が経っていないにも関わらずけっこう人がいた。
私たちは大きなソファーの端の方に座った。千夜はお茶を二つのグラスに注ぐと、
「シャロちゃん、乾杯しましょ」
そう言って片方を私に差し出した。
「そうね、それじゃあ」
「シャロちゃんとの二人旅記念に」
『乾杯!』
二つのグラスが軽くぶつかる音が車内に響く。
そういえば、千夜と二人っきりでこうやって過ごすのも久しぶりかも知れない。
小さい頃こそ一緒に出かけたりしてたけど、高校に入ってからはお互いバイトと店の手伝いで忙しくなったし、出かけるにしてもココア達も一緒のことが多かった。
そう考えると、この旅行に誘ってくれた千夜に感謝しなきゃね。
「このお弁当、すごく美味しいわね」
上野駅で買ったお弁当を美味しそうに食べる千夜。そうだ、
「千夜、ちょっとカメラ借りていい?」
「いいけど、何撮るの?」
「お弁当食べてる千夜よ」
「なんだか自分が撮られると思うとちょっと恥ずかしいわね」
千夜はお弁当を手に持ち、はにかんだ笑顔を私の方に向けてくる。
…うん、いい思い出が一つ増えたわ。
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