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――早坂くん!
なんだろう、自分を呼ぶ声がする。
「早坂くん、起きてください、邪魔です!」
「ん……?」
むくりと和泉は机に突っ伏していた顔を上げた。どうやら部室で居眠りをしてしまっていたらしい。読み終わり高々に積み上げられた本は、机の上で殺風景を為していた。
何か後頭部に鈍い痛みを感じるので、起き上がると自分を激しく睨む人物がひとり。
「千雪……あ、おはよう」
「ああ、おはようございます。じゃねーです。私が起こしてんだから早く起きてくださいよ」
不機嫌そうに鼻を鳴らす千雪の手には、自分を殴ったらしい文庫本が握られていた。和泉は冴えない目を擦り、タイトルを読み取る。
「あ、それ……」
「あー、この本、早坂くんの読みかけを拝借させていただきました!面白い話ですね、星の王子さま!肝心なことは、目に見えないだとか。
そうだ。帰りに新しく買ってお姉ちゃんにも読ませてあげようかな、そうして自分の本にするんです」
千雪は文庫本を倒れた本達とは別に大切に置くと、立て付けの悪い扉を開けて入ってきた刹那達にちょっかいを掛けに行ってしまった。
肝心なことは、目に見えない。
現実の千雪も、消えてしまった千雪も同じ事を言った。窓際に寄り、和泉は空を見上げた。
少しだけ意味がわかった様な気がした。
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