§最終章Ⅰ§

30/34
前へ
/34ページ
次へ
「赤ちゃん…ですね」 俺も敦さんも虚を突かれ、真実を問うように春香さんの方を見ると、彼女は黙ったままゆっくりと瞬きを一つした。 それが全てに通ずる答えだった。 「こちらをご覧下さい」 榊さんが胸のポケットから写真を取り出し、敦志さんに渡した。 「春香様の…いえ、正確には、敦志様と春香様の御長男の忠志(タダシ)様です」 敦志さんはこれでもかというほど目を開にしてそれを見た。 写真を持つ手は震えている。 「私の…子……?」 春香さんに今一度問いかけたが、彼女は目線をそらして口を引き結んだまま黙っている。 「どうしてもっと早くに言わなかった!?」  敦さんが声を荒げて写真を持ったまま、春香さんの両腕を掴んで揺さぶった。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

791人が本棚に入れています
本棚に追加