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(ずいぶん大人しいな……)
「…うるせえ、黙ってろ…」
(まあ、大人しくしてくれる方が、こっちとしては楽だがな)
「黙ってろって言ってんだろ」
(思ったより元気そうだな)
「病院に来てから、少し楽なんだよ。
なあ、少し黙っててくれよ…」
(………)
少し前に目覚めだが、意識は朦朧としている。
時間は夜の9時ぐらいだった。
誰かが病室に入ってきた。看護士だろうか……
カーテンをめくった時に見えた顔は、親父だった。
約10年ぶりの再開だ。
もう還暦近い年齢だが、年齢以上に老けて見える。
私と親子の縁を切ってたことは、親父にとっても苦痛だったことを物語っている。
「お父さん……と呼んでいいのかな………」
親父は急に泣き出し、私を抱きしめた。
「もちろんだ…もちろんだとも…‥
すまなかった…本当にすまなかった……」
仲違いしても親子は親子だ…
私も無意識に涙を流していた。
久しぶりの対面に、私たちは時間の溝を埋めるように語り合った。
気づいた時には11時を回ったいる。
「そろそろ、戻らなくてもいいの?終電なくなるよ」
「そうだな、一度戻らなくてはならないな…‥
入院に必要なものも、もっと用意しておかなければならないし、それに万が一の事態にも…‥」
「アナタ!」
「おい、万が一ってどういうことだ?
私は治るんじゃないのか?」
「あ、いや、それは……」
「はっきり言ってくれよ…
先生から何か聞いているんだろ?」
「いや、まあ、…」
親父は昔気質の人間だ。とっさに嘘がつけない性格。
だから、不意を突かれると、いつも口ごもる。
変わっていないなと思った。
「親父はいつもそうだ。
大事なことはいつも一人で抱え込んで、失敗する。
だから五十近くでも会社じゃ平社員だったじゃねぇか。
一回りも年下に顎で使われててよう。
どうせ今だって平社員なんだろ?」
「なんだと!」
「なんだよ!」
「アナタ、やめて!」
親父は頭に血が上ると、理性的な判断ができない人間だ。
「だったら教えてくれよ。
私はどうなるんだ?」
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