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痛み止めで意識を失っては目覚めるだけで貴重な1日が過ぎていく。
そんなことが3日ほど過ぎた。
私の中の謎の声は益々増長していく。
私は意識がある時は、コイツに反論していたが、周りはいつも怪訝な顔で私を見ていた。
医者は両親に対して
「痛み止めの主成分はモルヒネです。
麻薬のヘロインの元になる強力な麻酔ですが、場合によっては幻覚や幻聴を伴うこともあります。」
「こんな薬を使って大丈夫なのか!?」
「いえ、これだけ強力な麻酔を使わないといけないほど、患者様の苦しみは大きいのです。
今更、息子さんが苦しむ姿が見たいのですか?」
「うう……」
両親はぐうの音も出なかった。
(おう、生きてるか?
ま、当たり前か、ハハハ。
寝たふりしてるのは、わかってんだぜ。
ちっとは反発してもらわないと、こっちも張り合いが無ぇよ)
「うるせえぞ、頼むから黙っててくれ」
(寝てるだけじゃ暇だろ?
俺が話し相手してやってんだから有り難く思え)
「有り難迷惑なんだよ。
お前のその自我はいったい何なんだよ?」
(そんなこと、俺が知るかよ。
それじゃあ、逆に聞くが、お前こそ何なんだ?)
「私は私だ。」
(答えになって無いぜ。)
「人間には意思があるんだよ。単なる癌細胞のお前とは違う。
両親から産まれ、成長し、喜び、怒り、悲しみ、そういった様々な事象を経験して自らの自我を確立していく、それが人間だ。
お前には解らないだろうがな」
(だいたい、十三年だ)
「何がだ?」
(俺が、お前の細胞分裂の際のエラーとして産まれたのが約十三年前だ)
「何だと」
(大抵の奴は誕生後、早くて数時間、長くても数日ほどで排除される。
だが、俺は奇跡的に生き長らえた。
そこから俺はお前の中でお前の言う様々な経験をした訳だ。
俺とお前、何が違う?
お前が人間だというのなら、
『俺もまた人間だ』)
「何を言っている!?
私から産まれたと言っても、所詮は癌細胞。
誰の目から見ても、人を食らい尽くす化け物だ!」
(人を食らい尽くす化け物?
まあ、そう見えるかな…
人間である俺が人間を食らうってのも、なかなか皮肉が利いている)
「テメェ…
殺してやる……」
(無駄なことだ。
あまり興奮するな、またモルヒネを打たれるぜ。)
実際の病室では、私は譫言を喋りながら暴れていたのだろう。
端から見たら、麻酔が切れて、苦しみもがいているように見えたらしい。
すぐ、看護士がやって来た。
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