胎動

14/18
前へ
/18ページ
次へ
痛み止めで意識を失っては目覚めるだけで貴重な1日が過ぎていく。 そんなことが3日ほど過ぎた。 私の中の謎の声は益々増長していく。 私は意識がある時は、コイツに反論していたが、周りはいつも怪訝な顔で私を見ていた。 医者は両親に対して 「痛み止めの主成分はモルヒネです。 麻薬のヘロインの元になる強力な麻酔ですが、場合によっては幻覚や幻聴を伴うこともあります。」 「こんな薬を使って大丈夫なのか!?」 「いえ、これだけ強力な麻酔を使わないといけないほど、患者様の苦しみは大きいのです。 今更、息子さんが苦しむ姿が見たいのですか?」 「うう……」 両親はぐうの音も出なかった。 (おう、生きてるか? ま、当たり前か、ハハハ。 寝たふりしてるのは、わかってんだぜ。 ちっとは反発してもらわないと、こっちも張り合いが無ぇよ) 「うるせえぞ、頼むから黙っててくれ」 (寝てるだけじゃ暇だろ? 俺が話し相手してやってんだから有り難く思え) 「有り難迷惑なんだよ。 お前のその自我はいったい何なんだよ?」 (そんなこと、俺が知るかよ。 それじゃあ、逆に聞くが、お前こそ何なんだ?) 「私は私だ。」 (答えになって無いぜ。) 「人間には意思があるんだよ。単なる癌細胞のお前とは違う。 両親から産まれ、成長し、喜び、怒り、悲しみ、そういった様々な事象を経験して自らの自我を確立していく、それが人間だ。 お前には解らないだろうがな」 (だいたい、十三年だ) 「何がだ?」 (俺が、お前の細胞分裂の際のエラーとして産まれたのが約十三年前だ) 「何だと」 (大抵の奴は誕生後、早くて数時間、長くても数日ほどで排除される。 だが、俺は奇跡的に生き長らえた。 そこから俺はお前の中でお前の言う様々な経験をした訳だ。 俺とお前、何が違う? お前が人間だというのなら、 『俺もまた人間だ』) 「何を言っている!? 私から産まれたと言っても、所詮は癌細胞。 誰の目から見ても、人を食らい尽くす化け物だ!」 (人を食らい尽くす化け物? まあ、そう見えるかな… 人間である俺が人間を食らうってのも、なかなか皮肉が利いている) 「テメェ… 殺してやる……」 (無駄なことだ。 あまり興奮するな、またモルヒネを打たれるぜ。) 実際の病室では、私は譫言を喋りながら暴れていたのだろう。 端から見たら、麻酔が切れて、苦しみもがいているように見えたらしい。 すぐ、看護士がやって来た。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加