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けたたましく鳴り響く目覚ましが何度もスヌーズを繰り返し、淡々と職務をこなすこと数十回。
「んぁ……っと、は、はぁっ!?」
反動も付けずに飛び起き、一分足らずで着替え終了。
階下に降りれば、母親が見向きもせずに放った食パン一切れを見事なまでのパン食いキャッチで受け止める。
すぐにも玄関に滑り込み出立――ここまで僅かにして5分足らず。
ポーチを蹴り、見飽きた通学路へと繰り出すと、そこはもう母校は目と鼻の先。
高校選びのポイントはズバリ『近いから』ただ一択だ。
路面から立ち上るじりじりとした地熱は朝っぱらから照りつける西陽の仕業。
ここから更に暑さが増すだろう七月中旬、抜けるような蒼穹が恨めしい。
「ふぁあああ」
手櫛で申し訳程度に髪を梳きながら未だ重いままの瞼を垂れさせ、のっそり歩いていた。
「おっはよーう!」
どかっ!
鈍い衝撃がぶち当たった。後頭部にジャストミートされた不意打ち。一瞬頭を押さえた俺の眼前にハイパークラスの肉が現れた。
自称焼肉レベルのふくよかガール流佳だ。プヨプヨと動きに合わせて上下運動する二の腕はどこかコラーゲンを思わせる。
「外食なら焼肉、肉屋のスズキをご贔屓に~♪」
意味の分からない台詞を残して焼豚はどすどす音を立てて足早に消えていった。
「よ、抜人(ぬくと) !
なんだぁ、シケたツラしやがって。そんなお前のために無修正ものを準備してやったぜ、有り難く思えよ」
イケメンのカズアキは紺の鞄のジッパーをおもむろに開くと、俺の前にお宝映像のパッケージをチラつかせた。
『低身長☆萌え萌えパニック』――うん、犯罪の匂いしかしないな、カズアキ。
甘いマスクと高身長なれど、全てを台無しにする変態パラメータと掛け算九九さえ覚えきれずに終わった天才的な記憶力のなさ。
入試の際、ドラクエのバトル鉛筆でマークシートをすべて埋め、奇跡の合格を果たしたことはまだ記憶に新しい。
「じゃ、俺は朝のNHK番組ワンセグで観るからまたな!」
爽やかに白い歯をキラリ覗かせて去っていくカズアキはバッグの社会の窓を閉め忘れ、大変オシャンティーなことになっているのだが、俺は教えてやらない。
校門前に竹刀を持った体育教師が見えた。カズアキがサッと教師に賄賂を渡し、関門を乗り越えたのを眺めつつ、俺は時計台に向かって大きく伸びをした。
「今日も暑くなりそうだな」
End
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