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ひらり、ひらり。ふと上を見上げた俺の視界に空を漂う何かがあった。
視界には、高層マンション群。
ちらちらと翻りながら落下していくそれが紙だと気付くもそれ以上気にも留めず、人の流れは絶えずして――
「まあ、いっか」
俺は立ち止まったわけだが、舞い降りてくる物が例えば女性の下着だとか、身投げした人間であったのならば、皆立ち止まるに、違いないんだ。
上からひらひら落ちてくる紙切れ一枚のために時間を費やす現代人はまずいない。俺みたいに暇人でない限りは。
手を伸ばせば届くというところで、自由な紙鳥は最後の抵抗とばかりにくるんと翻った。
「おっと」
アスファルトの路面は昨晩の雨で濡れていた。掴まえられた功績は大きいぞ、うん。
白紙の紙を裏返した瞬間、俺の目付きは豹変した。
『怪盗予告』
新聞の切り抜き文字を切り貼りして作られた、なんともホームメイド感満載の脅迫状だった。
のりで貼った箇所がヨレヨレになっているところが哀愁を誘う――いや、違う!
これはのりじゃねぇ、ご飯粒だ!
のりですらねぇ!
しかも驚くべきはそれだけじゃなかった。
『怪人十面相』――こいつは、今世間やワイドショーを騒がせているホットな犯罪者の名だ。
なんてこった……じゃあ俺は重大な犯人の重大な証拠を手に入れてしまったということ――!
見上げた俺の視界には48階建てビルが――と言いたいところだが、実際は築年数を聞く=女性の年齢を聞くと同意義レベルのおんぼろ木造三階建てアパート。
これ見た瞬間、俺は思ったね。
“ 犯人は無職の中年男性だな ”
メタボ入ってて、眼鏡がよく似合うツラのオッサンだったりしてな!
何だか勝てそうな気がした。正体を突き止めて、警察に突きだしてやれば俺は間違いなく国民的スター……!
おそらくはこの原本をコピーしに行こうとしたんだろうな。
カットした新聞の文字に米粒を擦り付ける姿を想像しただけでなんだか哀愁を誘うものがあるな……おお、ほだされるなど正義の味方にあってはならない!
ふふふ、ふははははははは!
「あの、すみません」
背後から声がかかったことで思わずその場から飛び退いた。
奴だ、奴か!? 奴なのか……!!
「このへんに変な紙が落ちてきませんでしたか?」
振り向いたその瞬間、俺は共犯者に転職することを決めた。
End
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