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そうして今度は、懐から写真を取り出す。
写真には病室のベッドに寝ている老女が写っていた。
痛々しいまでに痩せた老女――。
けれど、その表情は明るく、おどけてダブルピースまでしている。
「マッチー……。あんたは最後までらしかったんだってね……」
写真を見つめながら、八雲が愛しそうに呟く。
「好き放題生きてきたし、激動の時代に病院のベッドで死ねるなら、恩の字だって笑ってたんだって?」
八雲の横を風が通りすぎた。
新緑の香りとアメイジング・グレイスの歌声が風に乗り、八雲を包み込んだ。
老いたのち、一線を退いた八雲のもとにある情報が届いた。
『不明になっている毒婦マチルダが、小さな児童劇団で活動をしているらしい』
噂を頼りに会いに行ってみれば、既に彼女は病気で他界しており。
彼女からすべてを託されたと言われ、二代目の毒婦マチルダを襲名した女性からこの場所を聞き、八雲はここにいた。
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