36人が本棚に入れています
本棚に追加
風が八雲を包み込む。
そして、ふっと。
墓碑の前に座り込んでいる八雲の前に影ができ、一切の音が消え――静寂が辺りを支配した。
『――八雲さん』
懐かしい声――。
あわてて、顔を上げると。
「マッ……チー……?」
そこには……かつての、若かりし頃の毒婦マチルダが居た――。
墓石の上に脚を組んで座り、艶然と微笑んでいる。
長い黒髪。白い肌。
間違いなく――往年の頃の毒婦マチルダ。
『てか、来るのが遅い!!』
「え?」
マチルダがクスクスと笑う。
『八雲さん、劇団を見つけるのも遅かったよね? オニクちゃん言ってたもん。“あれじゃ、お禿げさん、モテないはずだよ”って』
「ちょっ!! そんなこと言ってたの!?」
『うん』
「ひどっ!!」
それを見て、マチルダが楽しそうに笑う。
『……ねぇ、八雲さん』
「ん?」
『名前。“瑞月八雲”に戻さないの?』
いきなりの質問に八雲が返答に詰まる。
最初のコメントを投稿しよう!