一章

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少し先のほうで慌ただしく過ぎていった集団を、日向はぽかんとした顔で見送ることしかできなかった。 「何だったんだ、今の?」 会話の内容から推測すると、どこかで誰かが暴れており、それを二人の教師が止めにいったというところだろうか。日向は嫌な記憶が頭をかすめて、思わず舌打ちをした。 (俺の願いが叶うって言われたけど、本当に大丈夫なんだろうか。もしまたあんなことになったら、ここにもいられなくなるな) 暗い考えを振り払うように、日向は大きく頭を横に振った。そして落ち着くために、深呼吸を一つ。 「あっ、そういえば管理棟の場所を聞けばよかった。・・・って、そんな雰囲気じゃなかったな」 何となく上手くいっていない自分に、日向はため息をついた。しかし、日向は重要なことに気付いた。 「あっちから先生が来たってことは、もしかしてあっちの方向が管理棟か?」 その場からは、木が邪魔をしていて見えないが、そちらに目指す建物があることを信じて日向は進んだ。 森の中には様々な鳥の鳴き声が聞こえてきた。もし鳥に詳しければ、珍しい鳥の存在に心躍らせたことだろう。けれど、都会育ちの日向にとっては慣れない鳥の声は恐怖を増幅させるものでしかなかった。 歩いても歩いても、歩いていく方向に建物は見えない。 というか、それまで見えていた建物すらどこにあるのか分からなくなってしまった。今になって、見えていた建物に行って誰かに聞けばよかったと、日向は後悔した。
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