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お互いに自己紹介をし終わった後、日向は朔也について行って歩き出した。
そのとき朔也がなぜか日向の名前を知っていたことに、驚いたなんてやり取りがあった。けれど、日向は「転校生なんてそんなもんだろ」と思い、特に気にすることはなかった。
無言で歩き続けるというのも気まずいので、日向は何か話題を探す。
「迷わずに進んでるけど、朝霧は建物の位置が分かるのか?」
朔也はずんずん進んでいるけれど、日向からすれば同じような木が続いているだけに見えた。何かの目印があるわけではなさそうだ。
「慣れてるからね、もちろん分かるよ。まあ、この辺りは人が通るような場所じゃないから、分かりにくいけどね。ちゃんと人が通るところに行けば、目印あるから夏川でも分かると思うよ」
朔也は当たり前のように言っているが、日向にはその目印というものに全く心当たりはなかった。
「じゃあ、朝霧は何であんなところにいたんだ?」
人が通らない場所なら、朝霧がいた理由が分からなかった。
「それは、落し物を探してて・・・、あっ!」
朔也は何か思い出したようで、制服のポケットの中からスマホを取り出した。
「ごめん。ちょっと連絡してもいいかな?」
日向が頷くと、朔也はどこかに電話をかけだした。
「あっ、もしもし優奈。ごめん。俺いまから人を学園長室まで案内するから、ちょっと行ってくる。・・・・・・え? ・・・大丈夫、大丈夫。ほら、さっき話してた転校生だって。怪しい人とかじゃないから。・・・・・・うん、そうそう心配ないって」
どうやら電話の相手は日向のことを、不審者か何かだと思ったらしい。朔也は笑って否定しているけれど、能天気な受け答えのせいで、逆に相手を心配させそうだなと日向は思った。騙されやすい自分の母親のことを少しだけ思い出してしまう。
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