一章

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そんなことを思いながら朔也を見ていると、かすかに聞こえていた相手の女性の声が男性に変わったのが分かった。 「ああ、晴樹? ・・・・・・うん、そう。すぐ戻ってくるから、優奈と二人で頑張って。えっ? 嫌だよ。・・・・・・はいはい、じゃあね」 まだ相手の男性は何か話しているようだったけれど、朔也は一方的に電話を切ってしまった。 「いいのか? 忙しいみたいだったけど」 日向は心配そうに尋ねた。 「まあ、そんなに急ぐ用じゃないから」 そう言って朔也が歩きだしてしまったので、日向は結局何も言えず朔也について行く。しばらく歩いていると、前方に黄色い屋根の建物が見えた。もうすぐで森が終わるという場所で朔也は立ち止まった。そして、日向のほうに振り返る。 「ここまで来れば大丈夫でしょ」 「あの建物が管理棟。学園長室だったら、最上階の奥の部屋だから」 それだけ言うと、朔也はさっさと森に戻って行きそうになる。日向は慌ててその背中に向かって声をかけた。 「ありがとう、朝霧!」 日向の言葉に朔也は驚いて立ち止まった。そして、日向のほうを振り返るとなぜか目を泳がせている。そんな朔也の様子を日向はどうしたのだろうかと眺めた。 朔也は少し下を向いてから顔をあげると、どうしていいか分からないというような複雑な表情をしていた。 「・・・どういたしまして」 早口でそう言った朔也は、今度こそ森の中に戻って行ってしまった。少し呆気にとられていた日向だけれど、朔也の姿が見えなくなったときになってやっと、何となくさっきの朔也の態度の理由が分かった。
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