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冗談はさておいて、状況は先程の通りです。
トリヴァースの南極に来た目的は、内殻の再調査です。
状況の変化が無いか、それを確かめる為ですね。
そのついでにウィリアム君の訓練をしようと言うのですから、全く剛毅なものです。
「ウィル、まずは俺が手本を見せる。それを目に焼き付けろ」
ケイさんはウィリアム君の事を、愛称のウィルと呼ぶ事にしたらしいです。
私も今後はウィル君と呼称しましょう。
ケイさんは片膝をついてウィル君と視線を合わせてから、右手を前に突き出します。
そして迸る閃光。
膨大な電子の奔流が大気の中に流れ、強烈な光と音を吐き出します。
ケイさんの大出力による圧倒的火力は、射線上の影を跡形もなく全て消し去りました。
影による黒い陸地の中に、雪による白い川が幾重にも枝分かれしています。
数にして、三千ほどの影は葬ったでしょうか。
「次はお前の番だ。俺からもフォローはしてやるから、思い切りぶちかませ」
それは所謂無茶振りという奴ではないでしょうか、ケイさん。
ところがウィル君は、それを素直に受け入れたらしく。
「うん、分かった」
二つ返事で了承し、先程のケイさんの様に右手を前に突き出します。
ケイさんがウィル君の右肩に手を置いて、ウィル君の魔力を外部から操作し始めました。
ウィル君が自分の右腕に魔力を通すだけで、雷魔法の術式が構築される状態です。
「いくよっ!」
ケイさんの一撃に続き、二度目の閃光。
一度目と比較してかなり控えめな光と音でしたが、果たして。
「ウィル、すご……」
イレーネちゃんが、驚きの声を上げました。
それもそのはず、数にして千程の影が消し飛ばされたのですから。
ケイさんの一撃をアマゾン川とすれば、ウィル君の一撃はナイル川でしょうか。
流域面積、正確に言うところの攻撃範囲はケイさんの完勝ですが、ウィル君の場合はより遠くまで攻撃を届かせています。
これには何か、術式を組んだケイさんの意図があるのでしょうか。
「つかれた……」
急激な魔力の放出に身体が追いつかないのか、ウィル君はその場にへたりこみました。
ケイさんからの大幅なアシストが入っていたとはいえ、自分の意志で先程の雷魔法を放った事についてはあまり感想が無さそうです。
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