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私は落ち着いた足取りでイレーネちゃんの傍にやってきて、膝を折って目線の高さを合わせた上で、手を取ります。
「良いですか、回復魔法というのは怪我を治す相手を想う気持ちが大切です。この人の怪我を治したい、痛みを取ってあげたい、元気になって欲しい。そう思いながら、怪我を自分の魔力で優しく包むんです。……分かりましたか?」
イレーネちゃんは真剣な表情で私の言葉を聞き、力強く頷きました。
「それじゃあ、実際にやってみましょう」
私はイレーネちゃんの両手でウィル君の右手人差し指を包む様にさせ、それを私の手で更に包みます。
「ゆっくりと、自分の手のひらに魔力を集めて。……そうです。今度は集めた魔力で、ウィル君の怪我を包みましょう。優しく、ゆっくりとです」
私は言葉で誘導しつつ、魔力そのものへも違和感を覚えられない程度にアシストしていきます。
「怪我をしていないウィル君の指はどんなでしたか? 黒い焦げなんてありませんでしたよね。そんなものは今、無くなります」
耳元で囁く様に言葉を紡ぎつつ、イレーネちゃんの魔力に合わせて最後の一押しをします。
「さあ、手を離しましょう。ほら、怪我なんて全くありません」
イレーネちゃんの手をウィル君の指から離すと、そこには傷一つ無い綺麗な肌がありました。
「ホントだ、すごいや! イレーネ、ありがとう!」
ウィル君は自分の指を見て驚き、感謝の言葉を述べます。
ああ、幼い日のケイさんを思い出します!
こんなに可愛らしくお礼を言われた記憶はありませんが、素直なお礼は言ってくれました。
当時は私も、得意と言えるのは空間魔法だけでしたからね……。
回復魔法はケイさんの怪我を治す為に、必死になって頑張っていました。
今となってはケイさんが怪我をする事なんて、作戦以外で有り得ませんし……。
ちらり、ケイさんの方を見てみます。
すぐにこちらの視線に気付いたケイさんは、果たして何を言ってくれるのでしょうか。
と思ったのですが、返ってきたのは無言です。
酷いです。
若干恨みがましく見詰めていると、ケイさんは溜息を吐きながらこちらに近付いてきます。
そっと優しく、頭をひと撫でされました。
何ですか、ちょっと小躍りしながら喜んでも良いですか。
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