パーミッション

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 戦い始めて二十分程が経過して、ケイさんが戻ってきました。 「ただいま」  ケイさんは何食わぬ顔です。  おかえりなさい、と私は返事をしておきます。 「奴等の攻撃が思いのほか鈍くてな。上手い具合に負傷するのに手間取った」  何かを盛大に間違った台詞だと思います。 「お疲れ様でした。……ああ、でも、何だか懐かしいですね、ケイさんが負傷しているだなんて。計算され尽くした怪我の配置には、何とも言えなくなりそうですが」  左の頬と右肩、左二の腕、右手の甲、左太もも、右脹脛(ふくらはぎ)。  合計六箇所、上から下へ綺麗に左右交互となっています。  乱戦状態だった筈なのに怪我の位置を計算するとか、もう本当に意味が分かりません。 「それでも一応は戦闘による負傷だ」  しれっと言ってのけるケイさんに、私は何も言えなくなります。 「……イレーネちゃん、今度はケイさんの傷に回復魔法を使ってみましょうか」  とにかく今は、この子達のスキルアップが優先事項です。  イレーネちゃんがやはりと言うか、ウィル君の怪我よりもやや時間を長く掛けつつ、ケイさんの怪我の治療を終えました。  術者の感情が良く乗る魔法ですからね、回復魔法って。  とはいえ今日初めて回復魔法を使ったにしては高水準な感じでしたけど。  ……ウィル君は高水準とかそんな単語では到底表せない感じではありますけど。  それは横に置いておきましょうか。  ケイさんによる異常なブーストがあったんです、そういう事で片付けておきましょう。 「はー……、やっと終わった」  イレーネちゃんは少しうんざりした様な表情で、溜息混じりに言いました。 「良く頑張ったな、イレーネ。怪我を治してくれてありがとう」  ケイさんがイレーネちゃんの頭を優しく撫でながら、普段より柔らかい口調で褒め言葉と感謝の言葉を使いました。  イレーネちゃんは少し照れた様子になり、何だか微笑ましい光景です。  ところで、今度は私がケイさんの怪我を治して良いでしょうか。  私も撫でて貰いたいです。  そんな展開なんて待ってくれていない事は、私の中の冷静な部分が声高に叫んでいるんですが。 「ケイにーさん!」  思考回路が迷走していた私を現実に引き戻したのは、ウィル君の声でした。  何やら目をキラキラさせながらケイさんを見ていますが、何でしょう。
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