パーミッション

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「さっきの、僕にもできるかな!?」  さっきの、というのは……まさかケイさんのマーシャルアーツでしょうか。  だとしたら意外なモノに興味を持ったと思います。 「何だ、徒手空拳での戦い方が気に入ったのか?」  ケイさんも私と同じ結論に達したらしく、けれど私より強い確信を抱いて返答している様です。 「としゅ……? うん、グーで殴ったりパーで叩いたりしてたヤツだよ!」  恐らくウィル君は何気なく言った事だと思いますが、私は驚きました。  私だけではありません、ケイさんとリリアーヌも同じく驚いています。  だって、ケイさんの手が握られたり開かれたりしていた事に、気付けるだけの動体視力があるという事ですから。  近接格闘の達人が辛うじて目視可能な速度で動くケイさんを、彼はきちんとその目で捉えていたのですから。 「……リリアーヌ」  唐突にケイさんから名前を呼ばれたリリアーヌですが、その表情はむしろ予定調和と言わんばかりで。 「是非ともお願いするよ。優秀な者は出来るだけ欲しいからね」  ウィル君の教育カリキュラムに、雷魔法だけでなくマーシャルアーツが追加された瞬間でした。  そして二週間後。  ウィル君とイレーネちゃんの教育カリキュラムが、一通り終わりました。  イレーネちゃんの方は中級回復魔法使いといった程度に習熟して、この短期間でとても良く成長したと思います。  具体的には、骨折程度の負傷なら一分で完治させられるレベルです。  基礎は完全に叩き込めたと思うので、後は独力でも順調に実力を伸ばしていくでしょう。  そして、ウィル君はと言えば。  ウィル君はと、言えば……。 「あの、申し訳ありません。『あまり驚かないであげてください』と言いましたが、我ながら無理が過ぎる注文でした」  私は今、彼らの村の外で、ウィル君のご両親に深く頭を下げて謝罪しています。  原因は単純、問題のウィル君です。  私達が村に戻ってきた時、丁度影が来襲していました。  数は二千程で、村全体が絶望に包まれているのが遠めにも良く分かる有様です。  誰も彼もが顔を青くして、避難すらもままならず。  恐らくは、ぶっちぎりで過去最大規模の敵襲だったのでしょう。  とはいえまだギリギリ戦闘にはなっていない状況で、滑り込みセーフと言って良かったかと思います。  さて問題のウィル君ですが、ただいま無双状態です。
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