1959人が本棚に入れています
本棚に追加
「さっきの、僕にもできるかな!?」
さっきの、というのは……まさかケイさんのマーシャルアーツでしょうか。
だとしたら意外なモノに興味を持ったと思います。
「何だ、徒手空拳での戦い方が気に入ったのか?」
ケイさんも私と同じ結論に達したらしく、けれど私より強い確信を抱いて返答している様です。
「としゅ……? うん、グーで殴ったりパーで叩いたりしてたヤツだよ!」
恐らくウィル君は何気なく言った事だと思いますが、私は驚きました。
私だけではありません、ケイさんとリリアーヌも同じく驚いています。
だって、ケイさんの手が握られたり開かれたりしていた事に、気付けるだけの動体視力があるという事ですから。
近接格闘の達人が辛うじて目視可能な速度で動くケイさんを、彼はきちんとその目で捉えていたのですから。
「……リリアーヌ」
唐突にケイさんから名前を呼ばれたリリアーヌですが、その表情はむしろ予定調和と言わんばかりで。
「是非ともお願いするよ。優秀な者は出来るだけ欲しいからね」
ウィル君の教育カリキュラムに、雷魔法だけでなくマーシャルアーツが追加された瞬間でした。
そして二週間後。
ウィル君とイレーネちゃんの教育カリキュラムが、一通り終わりました。
イレーネちゃんの方は中級回復魔法使いといった程度に習熟して、この短期間でとても良く成長したと思います。
具体的には、骨折程度の負傷なら一分で完治させられるレベルです。
基礎は完全に叩き込めたと思うので、後は独力でも順調に実力を伸ばしていくでしょう。
そして、ウィル君はと言えば。
ウィル君はと、言えば……。
「あの、申し訳ありません。『あまり驚かないであげてください』と言いましたが、我ながら無理が過ぎる注文でした」
私は今、彼らの村の外で、ウィル君のご両親に深く頭を下げて謝罪しています。
原因は単純、問題のウィル君です。
私達が村に戻ってきた時、丁度影が来襲していました。
数は二千程で、村全体が絶望に包まれているのが遠めにも良く分かる有様です。
誰も彼もが顔を青くして、避難すらもままならず。
恐らくは、ぶっちぎりで過去最大規模の敵襲だったのでしょう。
とはいえまだギリギリ戦闘にはなっていない状況で、滑り込みセーフと言って良かったかと思います。
さて問題のウィル君ですが、ただいま無双状態です。
最初のコメントを投稿しよう!