パーミッション

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 ここ数日中では比較的温かい気温の今朝。  ただでさえ朝に弱い私は、抗い難い二度寝の誘惑に完全敗北し、ベッドの上でまどろんでいます。  うとうと、うつらうつら。  このまま再び夢の中へ─── 「いつまで寝てるつもりだ、フィー」  突如消え去る掛け布団。  一瞬前までとの温度差は、些か以上に厳しくて。 「うわぁ、寒いですっ!」  にわかに覚醒した意識が、私の口から悲鳴を吐き出しました。 「というかケイさん、うら若き乙女の寝室に無断で入るとは何事ですか!?」  着心地の良いゆったりした寝巻きに身を包む私は、私から奪い去った掛け布団を持つ男性───ケイさんに不満をぶつけます。 「一度目や二度目の勇者やってた時に何度も同じ布団で寝といて、今更何言ってる」 「うわぁ、異性として微塵も意識してない発言!」  今度は別ベクトルの不満をぶつけました。  こちらの不満の方がずっと大きいですよ、全くもう。 「……そういえばケイさん、今朝はなんだか普段より疲れて見えますね?」  デリカシーの欠片もないケイさんをじっと睨みつけていると、ふと普段と違う様子に気付きました。  何でしょう、敵勢力の根絶でも済ませてきたんでしょうか。  ……冗談で言いましたが、可能性を完全否定する事が出来ません。 「少し訓練をきつめにやってな。相手の正体が分からない以上、『ウィズダム』だけでなく『ブレイヴ』を使う必要があるかも知れないだろ」  どれだけ酷い想定をしているんですか、ケイさんは。  私はそう思わずにはいられませんでした。  第二の聖剣ウィズダムは、非常に使い勝手の良い聖剣です。  けれど第一の聖剣ブレイヴは、最低の使い勝手な聖剣でした。  有史以来全ての勇者が手にした数多の聖剣の中でも、ブレイヴは間違いなく最強の聖剣です。  推測ではなく、断定します。  けれど同時に、最も扱いが難しい聖剣でもあります。  それは、「歴代最強勇者と呼ばれるケイさん」ですら完全には扱えなかった程に。 「今のケイさんでもまだ、ブレイヴは扱いきれませんか」 「あの剣がそう簡単に扱えてたまるか」  即座に返されましたが、これまで私が聞いてきたケイさんの言葉の中でもトップ10に入るくらい感情が込められた言葉でした。  でも、確かにその通りですね。
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