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俺の名前は三角繋(みかど けい)。
十五歳の高校一年だ。
身長は172cmで、体重は59kg。
両親は共に純粋な日本人なので、髪は黒いし目も黒い。
顔の特徴は、人からの評価を借りれば「目付きが悪い」。
ほっとけ。
そんな俺は登校中で、自身が通う高等学校の敷地へ一歩足を踏み入れた瞬間───の筈だった。
踏み入れた右足が、正体不明の違和感を全身へと伝える。
否、正体不明というのは正しくない。
俺はこの感覚を知っている。
「過去に二度も体験した」。
沼に沈み込む様な、水に入る様な、足を踏み外す様な。
明確な感触が無く、けれども確かな感覚が俺に事態を把握させる。
───ああ、また呼ばれたのか。
最初の一度目は意識を失い、二度目は朦朧としていた。
けれど今回は身体が慣れたのか、明瞭な意識のまま「世界とのズレ」を感じている。
視界に映っていた校舎が、写真が劣化するみたいに色を失っていく。
加速度的なその変化は長く続かず、次第にまともな視界を再構築させた。
ただし、今度の視界はやたらと白い。
何故ならそこは、神殿の中だからだ。
左右に幾つも並ぶ、丈夫そうな白い柱。
見上げれば首が痛くなる高い天井。
それと、見ていて頭が痛くなってくる女の顔。
「ケイさんッ!」
白地に金の縁取りをした神官服を違和感無く着こなし、色素の薄いセミロングの金髪を振り乱し、サファイアの如き双眸を輝かせるその女。
文句無しに美少女と表現出来るソイツは、一段高くなった床の上に立つ俺に向かって駆け、そして抱き着こうとしてくる。
俺は冷静な思考で接触タイミングを予測し、ギリギリまで引き付け、最小かつ最速の動きで難無く回避運動を終えた。
俺に避けられた女は、無様に床と熱い抱擁をしている。
そしてゆっくりと起き上がり、恨めしそうに俺を睨んだ。
「酷いですよ、ケイさん!」
見れば薄っすらと涙を浮かべており、そこそこ痛かったと見える。
俺は笑みを浮かべて女に近付き、手を伸ばす。
立ち上がらせてくれると勘違いした女の手など当然回避して、遠慮無くアイアンクロー。
「既に二度も世界の救済を俺に押し付けて、更に三度目までやらせようとしてやがるお前の行動を鑑みてみようか。どっちが酷いよ? ああん?」
女の涙目が加速した。
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