プロローグ

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吉宗は黙って爺を見つめながら何かを見透かしたかのように失笑した。 「では、傷んではいけませんので早速部屋に戻りしかとこの身で毒味をして参ります」 そういうと爺は深々と吉宗に頭を下げた後、立ち上がると足取り軽く自分の控えの間へと戻っていった。吉宗は呆れ顔を浮かべながら黙って爺を見送った・・・。  京 陰陽寮の庭先 夜  冬が近い京の夜、静寂の中冷たい夜風が吹き荒び初老の男の体を通り過ぎる。男は星が輝く夜空を見上げながら物思いに耽っていた。男の名は大森豊明(おおもりほうめい)、京の朝廷の元に仕える陰陽師で北を守護する四神聖の一人である。月に群雲が掛かり月明かりが失われた時、背後の暗闇に人の気配を感じた。しかし、男は動じる事なく更に振り返りもせずその気配の主に話しかけた。 「龍泉か」 そう問いかけられた気配の主が、適わないといった面持ちで男のほうへ歩みを進めると暗闇の中から月明かりによって少しずつ姿が現れ始めた。年の頃は30少し前といったところで、背が高く非常に端正な顔立ちをした男で如何にも女受けする容姿である。山科龍泉(やましなりゅうせん)、京の朝廷の元に仕える陰陽師で東を守護する四神聖の一人である。山科が男の横まで来ると立ち止まり話しかけた。
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