1847人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「な、何それ!人を油断させたところで、そんな風に仕掛けるなんてっ。意地悪にも程がある!策士!非道!もう、嫌いっ!」
私は顔を真っ赤にして、頬に触れる彼の手を振り払った。
「嘘をついたのはお前。嘘をつかれたのは俺。なぜ麻弥が怒る?それ、間違いなく逆切れだろ」
「うっ…それは、そうだけど…」
どうして、あのタイミングで虐めるわけ!?
自分の非は認めるけれど…どうしても、収まり切らないこの気持ち。
「まぁ、麻弥をデートに誘う男なんて、思いつくのはその一人しかいないけどな」
「なぬ!?失礼なっ!…確かに、その一人しかいませんけどね」
悔しさ募った勢いのまま反論しようとしたものの…
更に痛いところを突かれ、ぐうの音も出ない。
「それで?俺に嘘をつきたくなるような、疚しい事をして来たのか?あの男と」
彼は大きなため息を吐き、脱いだジャケットを絨毯の上に放り投げた。
「まさかっ!初詣に行って、ひつまぶしを食べただけです。深津さんはただのバイト仲間ですからっ」
「ふ~ん。ひつまぶしとは、なかなか高級なもの奢って貰ったな。ただのバイト仲間ねぇ。向こうも同じとは限らないが」
先生は冷めた口調で言って、何か思うところがある様に語尾を濁す。
「……」
嘘が見事に暴かれてしまった私は、何とも言いようのない気まずさを感じながら唇を引き結んでいる。
刹那に、重い沈黙が流れ込む。
「…意地悪、策士、非道、外道、嫌い、…あと、俺に言った言葉なんだっけ?」
「えっ、…待って、非道は言いましたけど、外道だなんて言ってませんけど…」
冷酷とか酷薄とか厳酷とか、一言では言い表せない怪し気な冷たさを漂わせる彼を見つめ、言葉を詰まらせる。
「ああ、思い出した。悪趣味を自覚しろって、そう言ったな?」
「……言い…ましたっけ?」
「惚けても遅い。いい加減、自覚した方が良いのはお前だ。どんなにこの口で嘘をついても、俺には通用しないって」
彼は私の唇を指でなぞりながらそう言って、美しさを纏う余裕に満ちた笑みを浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!