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そんな私の様子をしげしげと見つめ、彼は口を引き結ぶ。
「何をそんなに頑なになってんだよ。この間の様子も動揺しまくりだったし…もしかして、あの医者と安藤自身との間になんかあんの?」
お涙頂戴の話の下に隠した不埒な事実を暴こうとするかのように、深津さんが胡散臭そうに私を見ている。
「何を言ってるんです?何かある訳が無いじゃないですか。家の主人と使用人の関係でしかありません!」
必要以上に、胸がバクバクする。
「ホントに~?じゃあ、イケメンエリート君の境遇に母性本能を擽られて、安藤が恋しちゃったとか…」
「前にも言いましたよね?威張り腐った傲慢な医者と仕事は出来ても、恋愛だなんて…私、考えた事もありません!」
――よくもまあ、ここまで嘘を言い切れるもんだ。
自ら契約内容に「私を抱け」と、前代未聞の家政婦業務を捩じ込んだ張本人が…
自嘲せずにはいられない。
「ふ~ん、なるほどね。…なら、良かった」
深津さんは呟くようにさり気無く言って、再び煙草のケースを開け始めた。
…ん?良かった?――――って、何が良かったんだ?
何だかよく分からんけど…
「…はい、納得して頂けたなら良かったです」
目をパチクリとし、取り敢えずの言葉を返した。
互いに一息置いた頃、
「明日から長野に帰るんだろ?いつ帰ってくんの?」
新たな話題を切り出す、深津さんの声。
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