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「…2日の夕方には帰宅するつもりです」
「仕事は?3日から仕事始め?」
「いえ、仕事は4日からです。1日早く戻って来て、家でのんびりしようかと…」
「そうか…。じゃあ、のんびりは置いといて、一応は3日の予定は空いてるんだ」
問いを連ねる深津さんは、きょとんとする私をチラリと見て口端をクッと引き上げる。
「…はあ。まあ、一応は」
笑みを浮かべる長身の彼を上目使いで見て、私は何の気なしにコクンと頷いた。
「…3日、半日で良いから俺に付き合ってよ」
「はい?あの…付き合うって、どこに?」
「初詣行こうよ。そうだな…熱田神宮にでも。クリスマスは泣く泣く諦めたんだ。初詣くらい付き合ってくれても良いだろ?」
深津さんは拗ねたように言った後、目を細めて爽やかな笑顔を放った。
クリスマスを泣く泣く諦めただなんて、大袈裟な。
大体あれは、クリスマスを一人で過ごすであろう淋しい私に気を使って、お情けで誘ってくれたくせに~。
今度は、正月休みを帰省だけで終わらせる私を可哀想に思った?
―――ったく、そんなに私を気遣ってくれなくてもいいのに。どこまでもお人好しなんだから、深津さんは。
「…良いですよ。行きましょう、熱田神宮」
前回の誘いを失礼な形で断ってしまった事に、ずっと申し訳ないと言う思いを抱えていた私は、静かな呼吸と共に笑顔を返した。
「えっ!?マジで!?じゃあさ、初詣なんだし着物を着て来てよ!成人式みたいなやつ!」
深津さんは突然声のトーンを上げ、目を輝かせる。
「えーっ!着物なんてアパートに置いて無いし。自分じゃ着れないし。着付けお金掛るし。しかも、疲れるから絶対に嫌です」
「何だよ、その嫌々尽くしは!…あ、でもその後に食事するなら洋服のが良いのか。でも、見たいよな~和服も…。だけどな…食事でシミが付いたらまずいし…」
喉仏辺りを触りながら、首を傾げて何やらブツブツと独語を落とす深津さん。
…あっ、食事と言えば、
高瀬家に戻るのが4日の夕方からだから…買い物は咲菜ちゃんとアピタにでも一緒に行こうかな。
しばらく二人に会えないんだ……
淋しいな………先生。
ガラスの向こう側に見える街灯の灯りを見つめ、私は人知れず小さなため息を落とした。
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