第13話 【初詣】

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翌日、私は1日2本しか運行されない直通高速バスに乗り実家のある長野県に帰省した。 私の生まれた町は飯田市寄りの山奥で、冬は辺り一面真っ白な雪に覆われ、林檎畑と疎らに見える古民家以外は何もない田舎町。 イオンやアピタなどのスーパーは当然のこと、このご時世にコンビニすらお目に掛ることも無く、野菜以外の食料品を調達するのに車で30分以上かけて山を下りて行かなければならないという、超ド田舎だ。 年末年始のテレビ番組はつまらないから暇だと言って、出掛ける本屋も無ければレンタルビデオも無い。 帰省したのだからのんびり昼寝でもしていれば良いとも思うが、日頃、物や情報に溢れた慌ただしい生活をしているせいなのか、田舎の何も無い生活が落ち着かなくて仕方ない。 家事手伝いと生意気な甥っ子達の相手をしているだけで、ただ過ぎていく無機質な時間。 一人行かず後家の私は、義理の姉弟ばかりか自分の兄妹にも気を使い、案の定、生まれ育った家であっても決して居心地が良いとは言い難いものだった。 「お姉ちゃん、大学病院に勤めてるんだから男の人いっぱいいるでしょ?ねえねえ、恋しちゃう素敵なドクターいないの?イケメンで高学歴で背が高くて優しくて、お金いっぱい持ってる…御曹司とか!」 台所から顔を覗かせる妹が、母が焼いてくれた林檎パンを一個ずつ紙に包みながら、居間にいる私に向かって声を投げた。 「御曹司のドクターってあんた…その条件、欲張りすぎじゃない?」 床に置いたバッグに衣類を詰め帰り支度をする私は、台所に視線を飛ばして唖然とする。 「だって、いるでしょ?開業医の跡取り息子とか」 「うん…そりゃ、いるけど」 確かに、親の財産の相続を待つ金持ちのぼんぼんドクターならウジャウジャ居る。 だけど、その中でイケメンで高学歴で背が高くて優しくてトータル「素敵」と評価できるドクターとなると… 突然頭に映し出された、高瀬先生の顔。
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