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「ギリギリセーフ……」
俺の後ろを王子担任が歩いてくるのを確認してからすげえ走った。
一息おいて席に着くと、松山が声をかけてくる。
「渡辺、こんなにギリギリなんて珍しいね」
「まあな……久々に焦ったわ」
そろそろ王子担任も教室に到着する頃だろう。
そう思って顔を上げると、もじゃもじゃの奴が目の前に立っていた。
「……香坂、どした」
「わたなべっ!!なんか具合悪そうだぞ!!!!」
「声がデカイ!!!!」
相変わらず俺が向こう岸にいるような大声を出す香坂の頭を思わず叩く。俺は悪くない。
「いいか香坂、お前のそのデカイ声は武器だがそれを使うのはケースバイケースだ。大きい声は出すべきときに出せ。わかったな」
「うう……ごめん……」
「心配してくれたのはありがとう」
「ほっほんとに具合悪そうなんだぞ!保健室連れて行ってやろうか!?」
「香坂、もう少しボリューム下げて」
「ほんとに具合悪そうなんだぞっ保健室連れいってやろうかっ」
ヒソヒソ声なのに周りに聞こえる声とはな。
どうしたものかと唸っていると、「よし!!」と掛け声を出した香坂がかがみ俺の腰をがっと掴む。
「おい待て、まさかおまえ」
「保健室まで連れて行ってやる!!!」
おい~~~~~~馬鹿なの~~~~~!?
俺よりいくらか低い身長の香坂が軽々と俺を俵よろしく抱えかげられる。そういやこいつ力持ち。
「バカッあぶね!!おろせおろせ!!あっやっぱあぶねえからそのままでいい!!ゆっくりおろせ!!!」
「ええっ!!!でも持っちゃったし……よしおろすぞっ!せーーのおっ!!」
「あ~~~~~やっぱこわいからもういいこのまま保健室連れてけ!!!」
「イエッサーーッ!!!」
勘弁してくれよ!!!
俺達と入れ違いに教室入りした王子担任が「こら、遊ばない」と困り顔で言ったが、香坂の「わたなべが具合悪いから保健室連れてく!」の一言で「じゃあ仕方ないね」と素敵なスマイルを見せてくれた。
俺が俵抱きの件について一切触れないあたりさすがこの学校の教師である。褒めてない。
「渡辺~~~あとでkwskな~~~~」
遠くで愛の叫びが聞こえた気がしました。
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