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一方のドーシャスは装備品が揺れる金属音を響かせながら廊下を駆けていた。廊下の突き当たりから階段を上ろうと右に曲がろうとした瞬間、下のフロアから敵兵士が駆け上がってくるのが見えた。
(不味いっ……!)
敵兵士は両手にアサルトライフルを握っている。構え直し、銃口をドーシャスに向けてトリガーを引くのに5秒とかからないだろう。対するドーシャスは武器類は背中に背負い込んでいる。取り出してから構える迄の間に攻撃を受けることは明白であった。それに加え、ドーシャスは走っている最中であり、止まる事すら儘ならない状態だ。
(間に合わんっ、体を止めるだけで手一杯だ、糞っ!反撃もできねぇ!)
動かない体と比較して動きすぎる頭の中でドーシャスはひたすら文句を言い続ける。無論、こうした所でどうにもならない事をドーシャス自身はよく理解していた。しかし、文句を言わずにはいられなかった。ドーシャスの頭の中でアドレナリンが分泌されたのだろう、敵兵士の挙動が彼の目にはとてもゆっくりと、まるでスローモーションの様に動き始める。右手がアサルトライフルのグリップをしっかりと握り締め、左手は銃身を支える。こうなれば後は独特の銃撃音、火薬の匂いと共に鉛の鋭利な塊が発射されるだけだ。ドーシャス目掛けて無数の弾丸が迫り来る。
ドーシャスの頭に諦めが過った瞬間、弾丸が彼の前方へと逸れた。いや、弾丸だけでなく廊下の風景そのものが前へと『押し出された』。否、ドーシャスが強い力で後ろへ引き戻されたのだ。ドーシャスの体はそのまま近くの部屋の中へと連れ込まれる。ドーシャスが部屋に入ると同時に扉は閉められた。廊下では未だ銃撃音が鳴り響き、さらに弾が壁に着弾、跳弾する音が彩りを添えていた。
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