始まりの冬

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貴族は政略結婚が当たり前。 千にも、裳着の後に女御話があった。 しかし、千は病を発症し難を逃れた。 勿論、病などでっち上げ。 お抱えの陰陽師に、自身に呪いをかけ病に見せかけたのだった。 「もうそろそろ、おでいさんの言う通り腹を括らないと駄目ですわね」 千は、そう呟くと唐衣を脱ぐ。 裳も外し上着、うちぎ、こうちぎ、あこめと脱いでいく。 袴、上袴、下袴も脱ぎ屏風の影に隠していた服を着る。 長く豊な髪を手慣れた手付きで纏め下働の女の様に布で包む。 「これで身軽になりましたわ」 千は、地味な下女の服に着替えるとこっそりと部屋を出た。 貴族の娘は普通なら自分で服を着替えたりしない。 勿論、一人で外にも出ない。 貴族の女性は成人後は、自室から殆ど出ないのが普通だ。 陽の光を浴びるのは童の頃のみ。 裳着を終えると屋敷の自室だけが自分の世界になる。 しかし、千は違っていた。 幼い頃より、こっそりと外出していたのだ。 その場所は、千が住む館の隅にあった。 お抱え陰陽師の待機場所。 その片隅にある、呪術研究の資料置き場。 千は、幼い頃からそこにこっそり通っていた。
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