天使降臨

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夏休みも押し迫った頃。 いつもは地元の祭りで、隣の女子高の子をどうやって誘うかで盛り上がるころなのに、そんな話は誰もしない。 すべての輪の中心に七林クンがいた。 「琳くん、一緒にご飯食べよう」 クラスの児玉がしつこく話しかけていた。 「児玉、しつこいぞ」 佐藤は隣から口を挟んだ。 「なんだと、佐藤。隣から口出すんじゃねぇよ」 「うるせぇんだよ」 「てめぇ」 児玉は佐藤のシャツの胸ぐらを掴んだ。 児玉は柔道部で175cm、84キロの立派な体躯。 佐藤は背は同じくらいだがひょろひょろしていてる。 恰好はいまどきの高校生っぽく、腰パンにシャツがデレッと垂れている。 「やめろよ、二人とも。七林クンが困るだろ」 隣でいきり立つ若者をちらっと見た七林クンは、冷たく言い放った。 「別に」 「君のせいでこいつら喧嘩してるのに」 「僕のせい?」 そういわれると自信がなくなる。そう、彼のせいではない。 でも彼を巡って、周りの人間が争いになっているのだ。 「仕方ないね。僕のせいだって渋沢君が言うから・・・長谷川君」 なぜか長谷川が呼ばれた。 「長谷川君、ごめんね。二人が喧嘩になっちゃった。止めてくれる?」 長谷川は琳クンの微笑みに顔を赤らめた。 彼のこんな顔を見たのは、初めてかもしれない。 「こらこら。児玉、大樹、授業始まるぞ。席について」 二人の方をポンポンと叩いて席に誘導した。 「これでいいかな、渋沢君」 「・・・・・・・」 決して自分では動かない。他人をマリオネットのように巧みに使う。 彼は天使なんだろうか。 綺麗な顔が近づいてきて、もう一回念を押す。 「ねぇ、渋沢クン。これでいい?」 猫なで声でこちらを上目づかいで覗き込む。 さくらんぼ色の唇がニヤリと嗤ったのを見逃さなかった。 彼はクラスの裏番長だ。 一見、弱々しそうに見えて、巧みに男どもを動かしている。 本当に天使なのか?それとも悪魔なのか。
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