102人が本棚に入れています
本棚に追加
夏休み前、むさくるしい男子高校に天使が現れた。
4時限目のチャイムが鳴った。
一斉に教室から出てくるのは・・・・男、また男。
横浜港の浜風が、窓からすーっと抜けていく。
「弁当、弁当!」
「やっと終わったぜ。古典眠ぃ~」
「長谷川~!後でノート見せて。完全爆睡してたわ」
「佐藤は毎回、寝てるな。寝るなら家で寝ろ!」
「渋沢~、キツイぞぉ。やさしくしてよぉ」
「キモいんだよ、今度赤点ばっかだったら、ぜってー呼び出しだぞ」
「いいよ。佐藤、放課後ノート渡すから」
「長谷川~。コイツを甘やかすとろくでもないヤツになるぞ」
「もうロクでもねぇよ」
「そだな」
三人で顔を見回して大声で笑った。
長谷川雄一は学級委員長。この学校では珍しく制服をきっちり着込んで、いかにも優等生だ。お人好しで、おとなしい。
佐藤大樹はこの学校の落ちこぼれ。もともと頭のいい学校ではない上に、その中でも下位10位以内にいつもいる。不良生徒というわけでもなく、単に頭の悪いヤツだ。
渋沢啓介はバスケに青春を捧げるスポーツマン。頭は悪いがスポーツでは県内で有名校だ。その中でもバスケ部は全国でも知られた強豪。
バスケばかりしている分、勉強はからっきし。
いつもつるんでいる三人は、何の共通点もないが、仲は良かった。
弁当を食べた後は、この三人でいつも裏手の芝生に寝転がって過ごしている。
いつものようにごろごろ寝転がっていると、潮風に交じって花の香りが嗅覚を刺激した。
男臭い、熱気でむせ返るような感じしかしなかったのに。
なんだろう、甘い香りだ。
「啓介、あそこ」
「ん?」
目を凝らすと、木の陰に一人の少女。
こんな男ばかりのこの学園に女の子なんて・・・・危険極まりない。
草むらからひょっこり顔を出している。
白いシャツしか見えないが、色素の薄いショートヘア、グレーの瞳、白い肌。
およそ此処に似合わない美しい人だった。
「君、入っちゃいかんよ」
「そうそ、飢えた男ばっかだから。早く出な」
「外国人かな?言葉わからないか?」
「長谷川、英語で頼む」
「えーっと、Get out early. This is the boys' school」
すると走って少女はいなくなった。
「なんて言ったの?長谷川」
頭にハテナマークをいっぱいつけた佐藤が聞いた。
「男子校だから、早く出てって・・・・言った」
三人は顔を見合わせて、うんうんと頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!