天使降臨

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 夏休み前、むさくるしい男子高校に天使が現れた。   4時限目のチャイムが鳴った。 一斉に教室から出てくるのは・・・・男、また男。 横浜港の浜風が、窓からすーっと抜けていく。 「弁当、弁当!」 「やっと終わったぜ。古典眠ぃ~」 「長谷川~!後でノート見せて。完全爆睡してたわ」 「佐藤は毎回、寝てるな。寝るなら家で寝ろ!」 「渋沢~、キツイぞぉ。やさしくしてよぉ」 「キモいんだよ、今度赤点ばっかだったら、ぜってー呼び出しだぞ」 「いいよ。佐藤、放課後ノート渡すから」 「長谷川~。コイツを甘やかすとろくでもないヤツになるぞ」 「もうロクでもねぇよ」 「そだな」 三人で顔を見回して大声で笑った。 長谷川雄一は学級委員長。この学校では珍しく制服をきっちり着込んで、いかにも優等生だ。お人好しで、おとなしい。 佐藤大樹はこの学校の落ちこぼれ。もともと頭のいい学校ではない上に、その中でも下位10位以内にいつもいる。不良生徒というわけでもなく、単に頭の悪いヤツだ。 渋沢啓介はバスケに青春を捧げるスポーツマン。頭は悪いがスポーツでは県内で有名校だ。その中でもバスケ部は全国でも知られた強豪。 バスケばかりしている分、勉強はからっきし。 いつもつるんでいる三人は、何の共通点もないが、仲は良かった。 弁当を食べた後は、この三人でいつも裏手の芝生に寝転がって過ごしている。 いつものようにごろごろ寝転がっていると、潮風に交じって花の香りが嗅覚を刺激した。 男臭い、熱気でむせ返るような感じしかしなかったのに。 なんだろう、甘い香りだ。 「啓介、あそこ」 「ん?」 目を凝らすと、木の陰に一人の少女。 こんな男ばかりのこの学園に女の子なんて・・・・危険極まりない。 草むらからひょっこり顔を出している。 白いシャツしか見えないが、色素の薄いショートヘア、グレーの瞳、白い肌。 およそ此処に似合わない美しい人だった。 「君、入っちゃいかんよ」 「そうそ、飢えた男ばっかだから。早く出な」 「外国人かな?言葉わからないか?」 「長谷川、英語で頼む」 「えーっと、Get out early. This is the boys' school」 すると走って少女はいなくなった。 「なんて言ったの?長谷川」 頭にハテナマークをいっぱいつけた佐藤が聞いた。 「男子校だから、早く出てって・・・・言った」 三人は顔を見合わせて、うんうんと頷いた。
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